デジタル分野など成長産業への労働移動を促すため、岸田文雄首相は2月、自己都合で離職した場合の失業給付のあり方を見直すと表明。日本経済新聞は4月11日、政府が給付開始にかかる期間を現状の2カ月以上から7日程度に短縮する方向で検討に入ったと報じた。専門家は「退職に対するネガティブな認識が変わる可能性がある」と指摘する。一方で、労働移動を促すには、より抜本的な対策に踏み込む必要があるという。
「退職自体をネガティブなものと捉える風潮がなくなっていくのではないか」
こう話すのは、人事責任者などを長年経験し、採用活動や転職動向などに詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎氏だ。
失業給付は仕事を失った後、ハローワークで手続きをすれば、原則として離職前6カ月の賃金を平均した1日分の45〜80%の金額を90〜150日間にわたり受け取ることができる。会社都合の退職は7日の待機期間を経ればすぐ支給開始されるが、自己都合の退職は待機期間に加え、2カ月以上の給付制限期間がある。給付金などを目的とした安易な退職を防ぐ狙いがあるとみられる。
厚生労働省は、自己都合の場合でも体力の不足や妊娠・出産など「正当な理由」に該当すれば会社都合と同じ扱いとするとしているが、「逆に言えば、会社都合と同じ扱いではない自己都合の退職は『正当ではない理由』だということ。退職がネガティブなものと認識されてきたことが如実に見てとれる」と川上氏は指摘する。
こうした給付制限期間が、転職への障壁になっているとかねて指摘されており、岸田首相は2月15日の「新しい資本主義実現会議」で、「労働移動を円滑化するため、自己都合で離職した場合の失業給付のあり方の見直しを行う」と述べた。
実際に、失業給付の迅速化で、政府が狙う成長産業への労働移動は促されるのか。川上氏は「一定の効果は見込めるものの、労働移動を促す決定的な要因になるとまでは言えない」と指摘。「転職と再就職の違いを整理して効果を考える必要がある」と説明する。
通常、転職は在職中に就職活動して間を空けずに次の就職先に移ることを指す。一方、再就職は一度退職してから仕事を探して次の就職先に移ることを指す。今回、政府が検討に入ったとされている失業給付の迅速化は、あくまで再就職のサポートにとどまる。
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