クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

なぜヘッドライトがまぶしく感じるクルマが増えているのか高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)

» 2023年05月04日 08時00分 公開
[高根英幸ITmedia]
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クルマの運転と視力の関係

 われわれが最近のヘッドライトをまぶしく感じるのは、目のメカニズムと加齢も原因の一つらしい。ドイツの老舗レンズメーカーの日本法人である、カールツァイスビジョンジャパンにクルマの運転と視力の関係について取材したことがある。

 それによるとまずLEDランプやHIDランプの蒼白光はエネルギーが大きく、瞳の中に入っても減衰が少なく眼球内を反射してまぶしさを感じるそうだ。

従来のハロゲンランプによる光と、LEDやHID(キセノン)ランプによる光の比較。450nm付近の波長の光が多く、高いエネルギーを有しているため眼内で反射しまぶしさを感じさせる(写真:カールツァイスビジョンジャパン)

 3つめの原因は、ドライバー自体の問題だ。加齢によって眼球内部を満たす硝子体にも不純物が生じ、水晶体も濁りが生じてくるため光が乱反射することでまぶしさを感じるのだとか。つまり高齢化によっても、まぶしく感じるドライバーが自然と増えているのである。だから前述のクルマの姿勢変化などによるチラつきにも過敏に反応してしまうらしい。

 対策としては夜間のドライビングに適した眼鏡を使用することだ。眼鏡レンズメーカー各社から、ドライビング用のコーティングが施されたレンズが用意されている。これにより幾分、まぶしさは軽減されるので安全性が高まるとともにストレスも軽減されるだろう。

 周囲が暗くなるとヘッドライトを自動点灯するオートライトが2020年より義務化されたが、これにより無灯火で走るドライバーを減らすことはできても、灯火類の操作をクルマ任せにしてしまうドライバーを増やすだけで、根本的な解決にはつながらない。

 ロービームの光量の上限に規制がないことも原因の一つだ。クルマの姿勢変化によってチラつきや対向車を幻惑する可能性がある以上、灯火類の光量にはキチンと上限を決めたほうがいい。明るすぎるライトは光害にもなり得るのだ。

 ただ車両法の適正化や道交法の周知だけで解決するのではなく、高齢ドライバーのペダル踏み間違いや免許返納などと同様、本質的にはドライバーの意識を変えていかねばならない問題なのである。

筆者プロフィール:高根英幸

 芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。


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