クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

トヨタ新型「クラウン・スポーツ」の仕上がりと戦略池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)

» 2023年05月08日 08時37分 公開
[池田直渡ITmedia]

基本性能はどうか

 と、いきなり極ハードな話に入ってしまって、いくらサーキットでのインプレッションとしてもちょっとアレなので、基本の所も書いておかなければいけない。

 走り出しからクルマが静かで穏やか、パワートレインは電気がよく仕事をしていて、静止状態からスムーズにトルクが付いてくるし、かなり静かでもある。シャシーは低速でのハーシュネスをよく抑えていて、乗り心地のレベルは高い。走りの質感に小うるさいおっさんに文句を言わせない。

走り出しから静かで穏やか

 こういうジェントルなクラウンらしさと、先に述べたスポーツカー並みのハンドリングを両立して見せているところがたぶんクラウン・スポーツの最大の美点だろう。もしかしたらこれがこれからのトヨタの味なのかもしれないという思いがちょっと頭をかすめた。

 ちなみに、ここにもまたDRSの恩恵がある。リヤの逆位相ステアのおかげで、ターンインでリヤが必要以上に踏ん張らなければ、ヨー(車両の自転運動)の立ち上がりの邪魔にならない。リヤが協力することで結果としてフロント外輪の負担が減るので、重い車重と高い車高の割に大きなダイアゴナルロール(斜めロール)が入りにくい。だからロール抑制のためにあんまりばねを硬くする必要がない。その結果、乗り心地と運動性能を両立できるのだ。

 現在プレミアムクラスのリヤサスペンション形式はマルチリンクが定番であり、それはつまりトーコントロールアームを使って、リヤタイヤのトー角(内股、外股の角度)をコントロールしてやる機構なのだが、これだと条件に応じた任意の角度にすることはできない。サスペンションが同じ量縮んだら、それがロールによるものでも、路面のコブによる突き上げでも、同じ様にトー角を変えてしまう。

 DRSはそれをもっとケースバイケースに切り分けることができる。トヨタではステアリングの切り込み量と速度をベースに、ヨーレートセンサーの数値を見ながら補正している。つまり今、ドライバーがもっとヨーを増やしたいのか、減らしたいかをステアリング操作を基に推定し、前後左右方向加速度や自転加速度で車両の状態を見ながら補正している。

 おそらくこの際にブッシュコンプライアンスによるタイヤの位置決めの揺らぎをDRSが補正して平滑化できているのではないか。だとすればタイヤの位置決めと乗り心地のトレードオフ関係も解決できる。いずれにしてもこの制御精度が著しく向上したことが自然さの秘密だろう。

 ここまでできるのであれば、DRSには、条件の切り分けに限界のあるマルチリンクの上位互換技術としての期待がかかる。やろうと思えば、トーだけでなくキャンバーだってオンデマンドに変えられる。何よりもこれまでアームとリンクの幾何特性に依存してきたジオメトリー(タイヤの角度制御)は、パッシブなものとされてきたが、それを電子的にアクティブにコントロールできることに大きな可能性を感じる。

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