ニュージーランド出身で、柔術の世界でよく知られるインストラクターのジョン・ダナハーは、ブラジリアン柔術や総合格闘技を学ぶことで、自分がストレス下にあるなかで冷静さを保ちながら問題解決をする能力が鍛えられると語っている。ザッカーバーグも、柔術のトレーニングで戦いながら転がり回ることで、その能力を磨いているらしい。またザッカーバーグは柔術から、物事をコントロールできるようなタイミングになるまで待つのではなく、実際に積極的に物事を押し進めて結果に影響を及ぼすことが重要であると学んでいるという。
柔術には、頭も体もクリアな状態を維持しやすくなる効果もあるとされ、それもまたザッカーバーグの日常にプラスになっている。柔術の訓練の間は、他のことを考えている余裕がないので、いい気分転換にもなっているという。前述のジョー・ローガンのインタビューでも、柔術が仕事においてもエネルギーを与え、集中力を高めていると語っている。
ザッカーバーグのように、ビジネスにおける重圧を体を動かすことでマネージしようとしている起業家たちは少なくない。日々の戦いのために「心と体を鍛える」ことを意識しているのである。
例えば、アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾスは、17年に突然マッチョになってネットで騒ぎになった。ベゾスは専用トレーナーをつけてウェイトトレーニングなどを行い、厳しいビジネス界を生き抜くために心身ともに鍛えるようになったという。これを受けて、ビジネス界のエグゼクティブたちの間では今、トレーニングすることがはやりになっており、米ウォールストリート・ジャーナルが記事にしているくらいだ。
その他にも、バージングループの創業者であるリチャード・ブランソンは、崖から飛び降りるスポーツのベースジャンピングなど、心身を鍛えるスポーツにハマっているのが知られている。
さらに格闘技に熱中しているビジネス幹部として知られているのは、決算サービスのペイパルのCEOであるダン・シュルマンだ。シュルマンは、イスラエルの実戦格闘技であるクラブマガで鍛えている。以前のインタビューでは、「格闘技は肉体的な部分だけでなく、そこで学ぶ哲学で自分が直面する状況をクリアに考えることができるようになる」と述べている。またビジネスでも「多くの人がいろんな意味で戦っている」が、格闘技を学ぶことで、「一歩引いて状況を理解して、冷静沈着に正しく問題に対応できる」と主張している。
ただ冒頭でも触れた通り、ザッカーバーグの率いる事業は、23年の現時点までの業績はかなり悪化しており、今後の動きやメタの動向も世界的に注目されている。筆者が以前付き合いのあったフェイスブックの社員は、同社ではザッカーバーグが「王様のように君臨している」と言っていた。彼が全てをコントロールしているという意味だが、その分、ザッカーバーグが抱えるプレッシャーも大きいに違いない。
昨年始めたばかりのブラジリアン柔術が、そんなザッカーバーグを復活させる手助けの一つになるのか注目である。柔術がザッカーバーグの巻き返しに貢献したことになれば、柔術のジムがビジネスパーソンであふれかえることになるかもしれない。
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング