アップル「Vision Pro」は「Meta Quest」と何が違うのか本田雅一の時事想々(3/4 ページ)

» 2023年06月09日 16時30分 公開
[本田雅一ITmedia]

現実空間の再現をたやすく(?)実現

 MRを実現するには、まず現実空間を取り込んで3Dデータ化しなければならない。現実空間をデジタイズしたデータと、仮想空間に描く情報をミックスしなければ、MRにはならないからだ。

 しかし現在あるデバイスで、現実空間を高いリアリティーで達成できているものは皆無だ。外部の様子をカメラで伺うことはできるが、実際に目で見た場合の視野とはまるで異なるものになっているからだ。

 自分の腕は真っすぐ見えず、机はゆがみ、距離感も大きさも現実離れしている。外で何が起きているかは把握できるものの、現実の視野との乖離が激しく、その映像を頼りに自信を持って行動することはできない。ましてや、その映像と仮想空間のグラフィックスを正確に重ね合わせることなど、とてもではないが想像できない。

 ところがVision Proは、ものの見事に外の世界をデジタル化し、そのディスプレイで再現してしまっている。現実の視野と近い体験というのは、何も知らなければ当たり前と感じるものだが、そもそも当たり前のように見えることが驚きだ。

 現実の視野との乖離(かいり)が小さいため、装着したまま自信を持って行動し、テーブルの上にあるステーショナリーを手に取ったり、コーヒーカップを持ち上げて飲むこともできる。

photo 現実の視野との乖離が小さいという(写真はApple提供)

 このように現実空間と映像との乖離を小さくした上で、さらに仮想空間の重ね合わせの精度は実に高く、さらに4Kディスプレイを2枚使ったシルキータッチで滑らかなデジタル感が少ない映像と共に描かれるのだから、体験としてのレベルはまったく違う。と結論づけたいが、まだまだ驚きは多い。

 Vision Proは空間オーディオ技術を用いることで、仮想空間の音も立体的に表現することができる。例えば空間の中にビデオ通信でコミュニケートする相手の顔が映し出されたなら、会話相手の声はその映像の位置から聞こえる。その再現性は高く、自分が歩いたり、頭を動かしたことで仮想空間の映像との位置関係が変化したとしても、完全に追従してくれる。

 そしてダメを押すのが、そのレイテンシ(遅延時間)の少なさだ。頭を動かしたり、歩いたりした際に自分の動きと視覚の時差が激しいと、極めて不快で車酔いのような症状を起こすこともあるが、Vision Proではその時差、いわゆるレイテンシを意識させない程度に抑え込まれている。

 このレイテンシの少なさのおかげで、Vision Proによって与えられる現実空間と仮想空間の映像と音を頼りに、実際に行動を起こすことができる。

制約のない空間コンピューティングへの入り口

 長々とVision Proを絶賛しているように思うだろうが、筆者は決して手放しで絶賛したいと思っているわけではない。しかしながら、従来のよく似たアプローチの製品とは、制約を取り払う問題解決に対する詰めが全く異なっていることは知っておいてほしい。

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