例えば、MetaのQuestシリーズは仮想現実を体験するデバイスとして適しており、新製品のQuest 3はその性能や品質を大きく高めたものになるだろう。ビジネス用途を意識したQuest Proについても大きな違いはない。
しかし外の世界を見ることが可能なパススルー機能は備えていたとしても、それは利便性のためであってMRとはいえない。それらしく見えたとしても、現実の視野に近づき、気にならないほどにレイテンシを下げるためには、特別な設計が必要になってくる。
アップルはそのために、R1というチップをカスタムでデザインした。12個のカメラと5つのセンサー、6つのマイクから随時得られる情報を受け付け、並列に、的確に処理してリアルタイムに現実空間をデジタイズする。装着感や滑らかで画素を意識させない高精細な映像は最低限のベースラインだが、さらにリアルとバーチャルを同期させるために可能な限りの仕掛けを施したのだ。
おそらく、多くの人はまだこれまでのVR、ARヘッドセットとの本質的な違いについて想像できていないのではないだろうか。実は筆者自信、このデバイスを実際に使うまで、ここまで“Vision“をコンピュータの支配下で操れるとは想像できていなかった。
Meta Questシリーズのように、没入したゲーム体験や映像視聴も可能ではあるが、たとえQuestが進化したとしても、ゲームのグラフィックスが向上し、映像の品質が高まる“だけ”だろう。もちろん、価格を考えればそれも素晴らしい成果だ。
しかし、Vision Proが目指したのは特定のコンテンツ体験を高めたり、オンラインでの共同作業を高品質にするといったものではない。現実空間の中(もちろん没入できる仮想空間に入ることも可能だが)に、コンピュータとインタラクションできるパネルやオブジェクトを重畳し、コンピューティングと現実空間を区別することなく扱えるようにする。
開発者たちのアイデア次第で制約なく、空間にアプリケーションやサービスを実装できる新しいコンピューティング概念への入り口を作る。それこそがVision Proの目指したところではないか。数年後、あるいは10年後、私たちはあの時こそが、コンピューティングの歴史における転換点の一つだったと振り返ることになるだろう。
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