トヨタ新型「アルファード」と「ヴェルファイア」の正常進化池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2023年06月26日 09時08分 公開
[池田直渡ITmedia]

歴代アルヴェルにあった明らかな欠点

 さて、こうして、アルヴェルはトヨタの言う通り「快適な移動の幸せ」を体現したモデルとして1ジャンルを築いていった。広々として豪華な室内と押し出しの強い威風堂々とした外観を持つ乗用車。……なはずなのだが、アルヴェルには歴代共通の明らかな欠点があった。それは2列目シートの振動問題である。

 ミニバンの代名詞と言えばスライドドアだが、このスライドドアこそがボディ剛性の天敵なのだ。ミニバンの左右スライドドアを開けて、真横から見ると理由が分かるだろう。2列目シートの部分には床板と天井しかない。

アルヴェルの骨格

 しかもその天井ギリギリまでが開口部。下はと見れば、乗降性のために可能な限り床板が薄く、低くしてある。しかも室内はウォークスルーが必須なので、センタートンネルも禁止。せめて足元に敷居を付ければ多少の改善も見込めるのだが、乗り降りでつまずくと言われれば、これもダメ。2列目付近、つまりBピラーとCピラーの間の剛性を上げる手段は八方塞がりで、これでボディ剛性が出るほうが不思議だ。

 そして、困ったことに、実はスライドドアは素養として耐久性が低い。その耐久性を上げるためには、敷居の下に極太のスライドレールを入れるしかない。そうしないと経年劣化でドアが落ちるのだ。スライドドアの開閉軌道との兼ね合いで上下ともレールの位置は動かせない。

 その結果、下側の極太スライドレールと競合する位置のフレームメンバーを細く、しかも内側に曲げて場所を譲らない限りパッケージが成立しない。言うまでもないが、フレームメンバーは車体の骨格そのものである。しかもすでに述べた通り、ボディを補強する代替案は全て使えない。この状態で車体の骨格を妥協したらそれはひどいことになる。

 その結果、ミンバンとして巨大なエアボリュームが与えられ、ラグジュアリーな空間の中で最上級のおもてなしシートになるはずの2列目シートは、常にブルブルと震えることになる。エンジニアに聞けば、揺れの振動波はボディ左右方向だそうで、だからシートを固定する4本のボルトのうち、右か左の片側2本を外すと振動しなくなるのだという。

 だが安全に関わるシートの固定をおろそかにする選択肢はない。要するに床板の振動をシートレールが拾ってシートごと一緒に震えているわけで、つまりは床板の剛性を高めて震えを元から断たない限りどうにもならない。

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