しかし、不思議なのはなぜ他の小売業からの圧倒的な差別化に成功しているドン・キホーテという業態に完全転換せず、スーパーという機能を残す選択をしたのかだ。構造不況業態ともいわれるGMSであれば、ドンキにした方が収益性も高いはずなのだが、ドン・キホーテはあえてそうはしなかった。
その背景は、ドン・キホーテの顧客層(買い物空間を楽しみたい人、その時間がある人)は消費者マーケット全体においては少数派だということを、ドン・キホーテが自認していたところにある。ドンキは、特定地域において高いシェアを取るという一般的な小売業とは異なる店舗展開を行っている。なぜなら、大半の消費者はドンキの「魔境」を楽しむ時間を持っていない(もしくは時間があるタイミングは限られている)からだ。
大半の消費者は日々の仕事と家事に追われていて、ゆとりをもって買い物を楽しむ人(タイミング)はそれほど多くはない。そのため、消費者の多くが日用消耗品の買い物に求めるのは、食品、生活消耗品のみが集合している商業集積で短時間に買い回ることができる「生活必需品ワンストップ」といった場所である。
であれば、ドン・キホーテの店舗は適しておらず、大半の消費者にとっての日常的な買い物の場所ではない。そのことを十分に分かっているドン・キホーテは、地域で一定以上のシェアを求めることをせず、全国に広く分散した店舗展開を進めてきた。図表2は都道府県別のPPIHのディスカウント部門とGMS部門の大規模小売店販売額におけるシェアを示したものだが、正にそうなっている。ディスカウント部門のシェアはほとんどの県で1割以内となっている。しかし、GMS部門がある県では2割を超えている場所もあり、乱暴にいえば、GMS部門を育てれば2倍以上に売り上げを増やすことも可能なのだ。
そこで、PPIHは海外展開と並行してGMSの事業化を進めた。図表3はPPIHの部門別に分けた売り上げの推移である。コロナ禍もあってディスカウント部門の伸びが鈍化しているのは仕方ない面があるのだが、その成長を支えていたのは海外とGMSであることが分かるはずだ。国内でいえば、GMSであるユニーを傘下に入れたことで、ディスカウントの出店場所とGMS売上を並行して増やすことができた。ドン・キホーテとの融合によってGMSを再生できることを確かめたPPIHは、新たな成長フロンティアを見出したといってもいいだろう。
PPIHの総合スーパー部門は長崎屋、ユニーの店舗網を基本として再構築しているため、関東から中部地方のエリアに集中しており、それ以外の地域には展開していない。しかし、未出店地域に関してもGMS業態の店舗がいまだ存在していることを考えれば、さらにその勢力圏を拡大する可能性は残されている。
また、PPIHのGMSは総合スーパーといっても、食品の売上割合が7割を超え、一般的な分類でいえば食品スーパーに相当する業態であり、今後、ドンキ+食品スーパーとしてセットで新規出店を拡大することも十分に考えられる。海外展開に加えて、GMSという衰退しているように見られていた業態をも再構築することに成功したPPIHの成長余地は、まだまだ大きく広がっているのである。
中井彰人(なかい あきひと)
メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。
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