専門家は現状をどう見ているのか。「オタクの消費」などが専門のニッセイ基礎研究所の廣瀬涼研究員(瀬の「頁」は正しくは「刀に貝」)は、転売ヤーの問題点を2つ挙げる。(1)商品を安く仕入れてそれを高く販売する、(2)モノを買い占めることで、手に入りにくいことに付加価値を見い出し、正規価格よりも高い値段で販売する──という点だ。
他方で、消費者側にも問題があるとも話す。廣瀬氏は、転売ヤーについて「『本来の価格よりも高い価格だったとしても買ってもいい』と考える人のために『代わりに入手して譲ってあげよう』と考える者」と表現。「確実に手に入れたい消費者、入手の手間を省きたい消費者、購買機会を失いたくない消費者にとっては、入手できるのならば値段度外視で購入したいという欲求が満たされる」と指摘する。
転売の課題については「SNSによってトレンドが把握でき、そもそもトレンドが生み出される時代。転売がしやすい環境が整ってしまっている」と指摘。主な要因として、フリマアプリの普及を挙げ、「フリマアプリのおかげで簡単に取引できるようになった。不景気で副収入を得たい人からすれば、元手ゼロから高収入を見込め、時間さえ使えば始められるため参入障壁が低い」と解説する。
加えて、有名インフルエンサーが大量購入で競争を加速させている点や、投資目的での購入も課題に挙げた。
では、企業側はどのような対策を講じるべきか。「現実的ではなくメーカーの負担も大きいが、旬を逃さずに1個でもいいから需要を上回る数量を供給する状態を作ることが大きな転売対策となる」という。ただ「希少性によって商品価値が生まれるため、多売はブランド価値の低下やブームそのものを下火にさせ、売り上げ低下につながるため、(メーカーからすると)シェア維持の側面から難しいことかもしれない」と付け加える。
近年はポケカのように、受注生産を採用するケースもある。これに対し、廣瀬氏は「受注生産も、本来遊んでもらいたい対象となるはずの子どもの代わりに、親がその情報を入手し、予約や抽選販売に申し込む必要がある。コレクター層にとっても、目当てのものが購入品の中になかった場合、正規ルート経由での新規購入が難しいために、結果的に2次流通に頼らざるを得なくなる」と指摘。「個数制限をより厳格にすることで行き渡る数は増えるかもしれないが、家族間での転売や仲間を動員しての確保など、転売商品を多く持っている人が、市場価値を釣り上げ、ますます2次流通での価値を高騰させてしまう」と効果を疑問視する。
メーカー側や流通側によるコントロールは難しいが、廣瀬氏は「消費者の欲しいという感情はコントロールできないし、その感情に付け入りたいという邪念はさらにコントロールできない」とも指摘。「きれいごとかもしれないが、転売で利益を追求しなくとも生活が満たされるだけの好景気か、利益を追求しない他人を思いやる道徳心なくして、転売問題は解決しないのではないか」と話している。
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