売上苦戦していた「しまむら」なぜ復活? 「しまパト」「しまラー」という画期的システムが果たした役割長浜淳之介のトレンドアンテナ(4/5 ページ)

» 2023年08月04日 05時00分 公開
[長浜淳之介ITmedia]

幅広いターゲット

 しまむらの主たるターゲットは20〜50代の女性だ。しかし、10代、男性(女性客の家族など)、子ども、シルバー世代も含んでいる。

 従来のアパレルはターゲットを絞って、自らのコンセプトに合うユーザーを囲い込む傾向が強かった。例えば「渋谷109」に入居するブランドや、「セシルマクビー」「ラブボート」「リズリサ」などは、それぞれのブランドのファンを店員として雇う。その店員は、ブランド服を着こなす「カリスマ店員」とも呼ばれており、ファッションリーダーとしての役割を担った。

 ところが、しまむらの場合はトレンドの商品をいち早く模倣して商品化する。方向性は渋谷109ブランド系と同じだが、ターゲットを幅広く取り、多種多様なラインのアイテムを取りそろえる総合アパレルである点が異なっている。

若者向けブランド「アベイル」では、渋谷109系のラブボートも販売する(出所:プレスリリース)

 立地に関しても、しまむらはファッションビルに見向きもせず、生活道路沿いのロードサイドで出店を重ねた(最近は変わってきたが)。

 1990年代以降、デフレと不況の長期化で日本経済が停滞してくると、若者の懐具合も寂しくなった。また、携帯電話を持つようになったので、ファッションにお金が回らなくなった。そうした背景もあり、ファッションビルが衰退していく。しまむらはロープライスを武器に、次第にファッション性が高いゾーンにまでラインアップを広げてきた。今ではアベイルの店舗で、109系の代表的ブランドの「ラブボート」「ミージェーン」が販売されるようになっている。

しまむらの店舗外観
しまむらの店舗外観

 そして、百貨店ブランドの婦人服も伸び悩みが顕著になっていく。収入が増えず、名だたるブランドを買いたくても買えなくなった大人たちが、代替品として最終的に頼ったのはしまむらだった。

 しまむらは、消費者のニーズにより的確に応えるべく、ブランドを分化し始めた。96年にはヤングカジュアルの「アベイル」、2000年には婦人生活雑貨の「シャンブル」とベビー子ども用品の「バースデイ」、06年には靴の専門業態「ディバロ」の展開を開始した。

 そうした中で、幅広いしまむらの商品ラインアップから、センスが良かったり、実用性が優れていたりする商品をいち早く見つけ出すしまラーなる目利きのヘビーユーザーが生まれてきた。

 そして、インターネットの普及により、Instagram、ブログ、Twitter、YouTubeなどのSNSが発達。しまパトで発見した商品をSNSで発信し、共感するファンが集まるインフルエンサーのしまラーがファッションリーダーとして注目されてきたのだ。

 しまパト、しまラーは、アパレル側が仕掛けたカリスマ店員とは明確に異なる。しまむらの商品を独自の視点でセレクトする、SNS時代の顧客サイドから生まれたファッションリーダーなのである。

しまむらのPB「クロッシープレミアム」から、ハンガー干しできる機能商品「ラクっとお手軽きれいニット」(出所:プレスリリース)

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