最後に、渋谷駅を紹介しよう。コンピュータシステムには「アジャイルソフトウェア開発」という言葉がある。事態に合わせトライ&エラーを組み合わせて開発し、その繰り返しによってシステムが進化していく手法である。
駅の複雑さがSNSでもよく話題になる渋谷駅は、年々変化しており、そのたびに駅の構造が変わっていく。それゆえにアジャイル的な駅と考えてもいい。
まず渋谷駅には、JR東日本だけではなく、東急電鉄や京王電鉄、東京メトロが乗り入れている。しかも、それぞれの路線がバラバラに存在する。
路面電車がなくなったかと思うと、東急東横線の駅とは離れたところに東急新玉川線(現在の田園都市線)の駅ができた。京王井の頭線は地上駅から高架駅になったほか、東京メトロ副都心線がやってきたり、東急東横線の駅が地下に行ったりと、時代に合わせた駅の大変化が繰り返されているのである。最近では埼京線ホームや東京メトロ銀座線ホームの移転などがある。
巨大駅を構成する部分がそれぞれ少しずつ変化していき、現在も発展途中である。そのことが、渋谷駅を難しく分かりにくいものにしてしまった。
その難しさをさらに厄介にするのが、鉄道事業と周辺施設との結び付きである。渋谷駅は商業施設と直結した駅である。東急グループの実質的な創業者、五島慶太氏は鉄道と沿線住民のライフスタイルを同時に提供することで、企業を発展させるビジネスモデルを構築した。
現在でもこのビジネスモデルを東急グループは継続しており、鉄道の変化とあわせて渋谷駅周辺の商業施設を充実させている。駅周辺のビルには商業施設などを設け、そこで利益を生み出す狙いだ。もちろん、その施設を利用する人には東急沿線に暮らしてほしいという狙いがある。
そういった考えのもと変化を続ける渋谷駅は、複雑さが増していくのである。単に複雑な駅ではなく、変化する複雑さが渋谷駅の特徴である。
東京の外側にあった駅が、都市圏の拡大に飲み込まれ、大きな駅になっていく。こうして駅は複雑になり、ビジネスの発展がそれを加速させたのだ。
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