マーケティング・シンカ論

「恋愛リアリティーショー」戦国時代 ブームを支えるのは緻密な「体験設計」グッドパッチとUXの話をしようか(2/3 ページ)

» 2023年09月06日 08時00分 公開

恋愛リアリティーショーは「タイパが悪い」 なぜ人気?

 いくらブームが起こりやすい環境があるといっても、肝心のコンテンツが面白くなければ、そもそもユーザーは選んでくれません。「カップルが生まれる」という構造は共通しているわけで、似たようなコンテンツが繰り返されれば、すぐに飽きられてしまうでしょう。

 だからこそ、設定や出演者など、制作側はさまざまな仕掛けを用意するわけですが、最近の恋愛リアリティーショーは特に「山場」を先にユーザーに提示する傾向があります。

 分かりやすいのは『オオカミちゃんには騙されないシリーズ』です。メンバーの中に「絶対に恋をしない嘘つき(オオカミ)」が一人以上潜んでおり、視聴者は恋のゆくえに注目しながら「誰がオオカミなのか?」という推理にも勤しみます。さらに、23年開始のシリーズでは、オオカミのうち一人を初回放送で明かしてしまうなど、新たな仕掛けを取り入れました。

 嘘をつきながらも、誠実に恋愛のフリをしなければならない姿がまた反響を呼び、感想をSNSで語り合う――制作陣の描いたシナリオが実現できているのではないでしょうか。

『オオカミちゃんには騙されないシリーズ』の最新作では初回放送でオオカミが明かされるというタイパを意識した展開だった(画像:ネットフリックス公式Webサイトより)

 こうしたコンテンツの傾向は、いわゆる「タイパ(タイムパフォーマンス)」を意識したものです。「費やす時間に対する満足度や得られた効果」という考え方であり、若い世代ほどその傾向が強いといわれています。

 限りある時間の中でどの情報に触れるべきか。情報過多の時代だからこそ「面白いか分からないコンテンツには手を出せない」。視聴する前に特徴や面白さを知ってもらわないと、選ばれるための土俵にすら上がれないのです。

 一方で、仕掛けを先にさらしてしまう「ネタバレ」にもメリットはあります。それは見る人に「安心感」を与えるという点です。『水戸黄門』や『古畑任三郎シリーズ』など、結末が分かっているのに見てしまう。それと似た点があります。

 そもそも、恋愛というテーマは、タイパやネタバレとの相性は良くありません。先が分からずドキドキしたり、むず痒さなどに心震わされるはず。しかし、ユーザーはその結末を気長に待てるほどの時間はない。

 そこでゲーム性を取り入れたり、ネタバレを挟んだりすることである種の「安心感」を与える。このワクワク感と安心感のバランス、つまりユーザー視聴体験をどう設計するかという点で、制作陣は試行錯誤を繰り返しています。

 最近では、物語が2〜3日で決着する『今日、好きになりました。』など、超短期集中型のコンテンツも出てきています。恋愛というテーマでタイパとどう向き合うか、制作陣の苦悩はこれからも尽きないでしょう。

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