「品川駅」改良の全体像が見えてきた 交通結節点としてどうなる?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2023年09月09日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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東京メトロ南北線分岐線は国道15号線直下、乗り換え動線も見えた

 8月25日に公開された、内閣府・地方創生推進事務局の「第26回 東京都都市再生分科会 配布資料」によって、東京メトロ南北線分岐線の位置と乗り換え動線も明らかになった。

 東京メトロ南北線分岐線は、16年の交通政策審議会答申第198号において「都心部・品川地下鉄構想」として記載された路線だ。東京都が計画し、東京メトロが第一種鉄道事業として建設、運行する。東京メトロ南北線は目黒〜白金高輪〜赤羽岩淵間を運行し、目黒駅側で東急目黒線〜新横浜線〜相鉄線、赤羽岩淵側で埼玉高速鉄道に直通する。

 分岐線は白金高輪駅の引き上げ線を延長する形で南へ分岐し、品川駅に到達する。列車はすべて南北線の赤羽岩淵方面へ直通する予定だ。これで品川駅と訪日・在日外国人に人気の六本木、政治関係機関が多い永田町が結ばれる。

 地下鉄南北線は国道直下地下2階に改札階、地下3階にプラットホームが建設される予定だ。地上などほかの階層はエレベーターとエスカレーターで結ばれる。北側自由通路、中央自由通路、南側自由通路に対応した3カ所に対応する。

地下鉄南北線は国道直下。地下2階に改札階、地下3階にプラットホーム(出典:内閣府、都市再生特別地区(品川駅街区地区)都市計画(素案)の概要

品川駅周辺は魅力あるターミナルシティになれるか

 品川駅は日本の鉄道発祥からの歴史を持つ駅だ。しかし、大手私鉄が手がけた渋谷、新宿、池袋に比べると、ターミナルシティとしての魅力は薄かった。渋谷、新宿、池袋は高度経済成長期からデパートや映画館などが林立し、1970年代後半からはファッションビルや家電量販店が街の顔となっていく。大型書店、レコード店などのメディアショップも多く、若者やファミリー層の遊び場としてにぎわってきた。

 一方で品川駅はオフィスビルとプリンスホテルに代表される「静かな街」で、高輪口のパチンコ屋が異質な存在に見えるほどだ。京急百貨店は小規模だし、映画館はなかった。1970年代にボーリングとアイススケートが人気だったとはいえ、遊び場としては五反田、新橋、大井町の陰に隠れた街といえた。

 02年にやっと「品川プリンスシネマ(現T・ジョイ PRINCE 品川)」というシネコンができた。続いて05年に水族館「エプソン 品川アクアスタジアム(現マクセル アクアパーク品川)」ができる。ここは元ボーリング場だったところで、移設後のボーリング場は80レーンの大規模な施設になっている。

 例えば、東急電鉄沿線の人々は渋谷に行きたがる。小田急電鉄や京王電鉄沿線の人々は新宿へ。東武東上線や西武鉄道沿線の人々は池袋へ行く。しかし、私が大森に住んでいた00〜15年頃、大田区の京浜東北線や京急電鉄沿線の人々が遊びに行くところは川崎だった。確かに川崎には「なんでもある感」があった。シネコンも複数、家電量販店もLサイズ専門店もある。

 大森に住み始めた頃は、都内に住んで神奈川県へ遊びに行くのかと意外だった。しかし品川にはにぎわいがなかったし、だからといって品川乗り換えで渋谷へ行くのもおっくうだ。川崎なら電車1本である。品川を通り越して有楽町へ行くよりも、川崎のほうが近くて庶民的だと感じた。

 品川駅の高輪口はプリンス系の高級感、港南口は食肉市場もあって飲食店も多く、労働者の街だった。国鉄分割民営化で貨物ヤードが売却され、品川インターシティという高層オフィス街になった。これで港南口のイメージが変わり、ビジネスパーソンの街になった。飲食店などテナントも洗練されている。こうしたキリッとしたビジネス街が品川駅周辺の特徴かもしれない。京急品川駅上空に建設予定のビル3棟もオフィスやホテルだ。品川らしい開発といえる。

 都市計画はハコモノと街路しか示さない。街はテナントがつくる。品川で働く、遊ぶことがひとつのステータスかもしれない。だから品川駅周辺が渋谷や新宿のような街である必要はない。しかし、もっとにぎやかで幅広い人々に好かれる街であってほしいとも思う。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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