阿波踊りに“20万円の席”が登場 4年ぶり本格開催で見えてきたこと「富裕層」を狙え! 観光最前線(3/3 ページ)

» 2023年09月10日 07時00分 公開
[樋口隆充ITmedia]
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言語対応、法令順守…… 課題山積

 赤字体質からの脱却を目指そうと、アソビューが観光庁の補助金を活用し、6月からプレミアム桟敷席のチケット販売を始めた。「販売期間が比較的短かったが、日本人にも売れることが分かったのは一定の収穫」。開催前の取材では、一定の収穫を口にしていた同社の担当者。だが、実際に開催してみると、課題がいくつか浮き彫りになった。

 その1つが、言語対応だ。実際に利用した台湾出身の会社員アンディ・チョウさんとインフルエンサーのピンクさん夫妻(ともに32歳)によると、踊りの解説などは日英の2カ国語対応のみだったという。「台湾人は英語が堪能とは限らない。中国語対応もあると座席の価値がさらに上がるだろう」と話した。「実は食べる時間があまりなかった。コース料理の解説や、食べる時間と観覧する時間を明確に分け、食事に集中できるとさらにいい」とも指摘した。

 ただ、夫妻は「台湾でも有名な阿波踊りを現地で見ることができてよかったし、食事もおいしかった。四国は認知度が高くないが魅力がたくさんあり、ポテンシャルがある。改善すれば座席単価を上げてもチケットは売れるはず」とも話しており、サービス内容には概ね満足しているようだ。

 もう1つが、プレミアム桟敷席の法律違反だ。阿波踊りの閉幕後、プレミアム桟敷席の仮設のやぐらが建築基準法違反に違反していたことが分かったのだ。発注した施工業者が、事前に確認を得た設計図面と異なった仕様にしており、市の建築指導課から「検査済証」の交付が行われていない状態で座席を運営していたという。それが建築基準法違反になることも確認していなかった。具体的には、階段の幅や手すりの長さが10センチ程度足りていなかったが、運営側の独自判断で使用していた。

photo プレミアム桟敷席
photo 建築基準法違反の詳細

 この事態を受け、実行委員会とアソビューは「法的観点の認識が欠如していた」として謝罪。プレミアム桟敷席の利用者全員に返金することを決めた。再発防止として「余裕のあるスケジュール設定」「企画企業に対する第三者の専門家の配置」などを掲げている。

photo 再発防止策

 期間中は台風が到来し、最終日の8月15日は中止になったものの、前日は市の中止要請にも関わらず、実行委員会は大雨の中での開催を強行した。本州と比較すると、交通アクセスの面で圧倒的に不利な四国(特に徳島)なだけに、お盆期間以外の開催は集客面から難しい。高額サービスを提供するには、自然災害を想定した対応も必要となるだろう。

持続可能な阿波踊りへ

 実行委員会は9月4日に開催した会合で、今夏の阿波踊りに関する売り上げ状況を公表した。担当者によると、土日ということや天候に恵まれた初日と2日目の有料チケットは完売していたという。ネーミングライツの売り上げは1870万円で、協賛金は約3400万円に上った。

photo ネーミングライツの売り上げ
photo 協賛金の売り上げ(出典:実行委員会の公表資料

 初めてのプレミアム桟敷席は、準備期間の短さや法令順守の意識の低さなどが影響し、後味の悪さが残る結果となったが、今回の教訓を来年以降に生かすことが運営側には求められる。過去の“負の遺産”と決別し、高単価で高付加価値のサービスを提供することで、伝統行事を持続可能なものにできるか。今後も注目を集めそうだ。

photo 阿波踊りには三菱UFJ銀などの企業連も参加した
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