大手広告代理店の電通に勤務していた高橋まつりさんが自ら命を絶った痛ましい事件も、本人がツイッター(現X)に残した“小さき声”は、過労やパワハラにさいなまれた当時の辛い心境を伝える生の声として、今も多くの人々の心を突き刺しています。
そのとき発せられた“小さき声”が働き方改革の推進、引いては約70年ぶりの労働基準法改正による長時間労働是正へとつながっていきます。夜遅くまで残業していても「そういうものだから」と疑問さえ抱かなかったかつての風潮は、多くの職場で薄まりつつあります。
待機児童の問題も過労死の問題も、近年突如表れたわけではありません。苦しい思いをしてきた人たちはずっと以前から存在し、悲鳴を上げていました。しかし、勇気を出して声を上げても社会に届くことはなく、メディアが取り上げたとしても、やがてかき消されていきました。
しかし、インターネットが生活インフラとして定着し、子どもたちまでスマートフォンというデバイスを持ち、SNSで誰もが不特定多数の人たちと双方向で直接情報をやりとりできるネットワーク社会が構築されたことが、明らかに潮目の変化をもたらしています。
今は、インターネットとさえつながっていれば、個人が完全に切り離されることのない脱孤立化状態が実現されました。元自衛官の五ノ井里奈さんが性暴力を受けた事件も、本人が勇気を振り絞って“小さき声”を発したYouTubeが生の声を社会に届け、被害が明らかになったのです。
しかも、データが削除されない限り、生の声はインターネット上に残り続けます。今はまだかき消されている声も、やがて同じ思いを心にためる人たちが増えるにつれ、社会の認識が少しずつ「そういうものなのか?」と疑問形に変わっていきます。そのとき、かつて発せられた“小さき声”は、当時のままの生の声として再発見され、社会に影響を与えることになります。
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