西武池袋ストを「無意味」だと言った人へ “小さき声”を過小評価すべきでない理由働き方の見取り図(4/4 ページ)

» 2023年09月11日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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“小さき声”を低く見るリスク

 大手百貨店の61年ぶりのストライキは、労働者たちが団結して“大きな声”を届ける活動でした。親会社のセブン&アイ・ホールディングスは、ストライキが行われた当日にそごう・西武の売却を決定しましたが、その後の報道で買収した米投資ファンドは、従業員の雇用を当面維持することが伝えられました。ストライキのような“大きな声”には、今も職場を動かす力があるのです。

 そこに、ネットワーク社会の構築によって脱孤立化が進んだことで、“小さき声”にも職場や社会を動かすだけの力が備わりました。立場が弱い働き手たちにとって、闘う手段が増えたのです。

ストライキのような“大きな声”は今も職場を動かす力がある(写真:ITmedia)

 職場という閉ざされた世界では、今もパワハラやセクハラ、長時間労働の強制など理不尽な行為がなくなっていません。それらの行為の加害者は強い立場にいるため「そういうものだから」と“小さき声”をかき消すことができました。そのため、被害者の身近にいた人たちにとっては、見て見ぬフリをして長い物に巻かれることが、職場で生き残る上で賢い選択だったかもしれません。

 しかし、誰もが“小さき声”を発して職場や社会を動かしうる力が備わった今、そのような選択こそリスクになりつつあります。これまで隠蔽(いんぺい)できたはずの理不尽な行為でも、今後は隠蔽しようとした事実まで付加されて、明るみに出る可能性が高くなっていくからです。

 すると、加害者はもちろん、身近にいながら被害者に救いの手を差し伸べることなく、長い物に巻かれ、見て見ぬフリをしてきた人たちの存在も明るみに出ます。そして、“小さき声”が備える力に気づく人が増えれば増えるほど、明るみに出る確率はどんどん高まっていきます。

 “小さき声”の力が及ぶ範囲は、職場で理不尽な行為が起きた後の隠蔽を阻止することまでで、理不尽な行為自体をなくせるわけではないかもしれません。しかし、“小さき声”の力を行使することが当たり前になって、「泣き寝入り」という言葉が死語となれば、やがて理不尽な行為の発生自体を抑止することにもつながっていくのではないでしょうか。

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