最後に、20代の若者が仕事を通じてどのような感情を抱いているのかを見たところ、特にネガティブな感情に特徴が確認されたので触れておきたい(図表6)。「私は、はたらくことを通じて、不幸せを感じている」に対する回答になる。20代の若者の数値が最も高くなっており、50代とは10ポイント以上の差がある。20代の若者は精神的なつらさを抱えながら働いているのだ(※4)。
※4:高見具広も調査結果に基づき、「若年層や主任〜課長代理相当職クラスで、心理的ストレス反応など、メンタルヘルスに何かしらの問題を抱える割合が大きい」と指摘している(「働き方が変化する中での健康確保の課題」第126回労働政策フォーラム)
20代の若者のネガティブな感情をジョブパフォーマンス別に示したのが図表7である。ハイパフォーマーの若者は、ミドルパフォーマー、ローパフォーマーの若者以上に働くことを通じて不幸せな感情を抱いているのだ。
こうした仕事で抱くネガティブな感情は「もっと早く仕事ができるようになりたい」という「成長」志向が背景にあるのではないだろうか。しかし、ネガティブな感情の高まりはジョブパフォーマンスの低下や休職・早期離職に繋がる可能性がある。近年、従業員の健康増進が経営的にも重要であるとの議論がなされているが、今回の調査結果はそうした動きを後押しするものであろう(※5)。
※5:経済産業省「健康経営」
本コラムでは「働く10,000人の就業・成長定点調査」23年度の結果に基づき、20代若年就業者(民間企業正社員)の「仕事選びの重視点」「転職への捉え方」「仕事に抱く感情」に着目し、早期離職を食い止めるための示唆を得ることを目指した。
本コラムのポイントは次の通りである。
- 20代の若年就業者は知識やスキルの獲得ができる「成長できる仕事」を重視するようになってきている。他方で職場の人間関係のよさ、仕事とプライベートのバランス、休みのとりやすさなどの「働きやすさ」に関する項目の肯定率が低下傾向にある。ハイパフォーマーの若者はローパフォーマーの若者よりも「働きやすさ」や「成長」を重視する割合が高く、成長が実感できない仕事、働きづらいと感じる職場を早々に離職を選択する可能性を示している。
- 20代の若年就業者は上の世代と比べると転職に対して肯定的イメージを持っており、他の会社に転職したいと考えている割合も高い。特にハイパフォーマーの若年就業者がそうであるが、現在の勤務先で働き続けることも肯定的に捉えている。
- 20代の若年就業者は上の世代よりも働くことを通じて不幸せを実感している割合が高かった。そして、ハイパフォーマーの若者はミドルパフォーマー、ローパフォーマーの若者よりもそうしたネガティブな感情を感じている割合が高い。こうしたネガティブの感情の高まりは、休職や早期離職につながる可能性がある。
企業の持続的成長を考えるとき、若者の早期離職を食い止めることは重要になる。そのためには「働きやすい」環境を整備するだけではなく、「成長」を実感できる機会をどれだけ若者に提供できるかが鍵となる。
特にハイパフォーマーの若者にとってはそうであろう。転職を肯定し視野に入れている20代の若者が、現在の職場で働きつづけたくないと思っているわけではないと上の世代が認識することも重要である。また、メンタルヘルスに注目し、ネガティブな感情を抱えながら働いている若者(特にハイパフォーマーの若者)をどう支えるかは喫緊の課題になっているといえるだろう。
パーソル総合研究所シンクタンク本部研究員。日本社会事業大学、岐阜大学、山梨学院大学の教員を経て、2023年4月より現職。大学教員としてはキャリア教育科目の開発・担当、教養教育改革、教員を対象とした研修運営などを担当。研究者としては、主に若者の学校から職業世界への移行、大学教職員や専門学校教員のキャリアに関する調査に関わってきた。
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