「クレカ積み立て」月額上限5万→10万円に拡大 tsumiki証券“異例の一手”の真意CEOに突撃(3/3 ページ)

» 2023年09月26日 06時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]
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なぜ10万円に増やす? 新NISAが背景に

 そもそも、なぜtsumiki証券は上限を5万円から10万円にアップするのか。大きな理由が新NISAだ。これまでの投資非課税制度「つみたてNISA」は年間投資上限が40万円、つまり月額3万3333円で事足りた。しかし24年1月にスタートする新NISAは、つみたて投資枠だけでも上限が120万円にアップする。これをカバーするためには月額10万円の実現が必要だった。

新NISAの投資上限枠。現つみたてNISAに当たる「つみたて投資枠」は、年間投資上限が120万円に拡大する

 そしてNISAに関係なく、多くのユーザーが月額上限額の拡大を望んでいる。tsumiki証券ユーザーの平均積立額は2万7000円だが、全体の約35%がつみたてNISAの限度額を超えて積み立てを行っている。こうした中「『月間5万円の枠が取り払われればもっと投資するのに』という声が非常に多かった」(青木CEO)

35%のユーザーが、現行つみたてNISAの月間上限額を上回るクレカ積立を行っている。月間5万円の壁がなくなれば、さらに積立額は増える見込みだ

 現状tsumiki証券ではNISA口座が5割、特定口座が5割となっており、10万円に増加するクレカ積立は特定口座も利用可能だ。

tsumiki証券が10万円に上限を増やせたワケ

 やっと本題だ。ではどうやってtsumiki証券はクレカ積立の上限を5万円から10万円に増やせたのか。「8月31日に、月10万円までクレカ1枚で積み立てられることを発表した。これは裏側の仕組みで対応している。内閣府令に反しない形で、当局や弁護士の確認が取れている」(青木CEO)

 最初にtsumiki証券の発表を見たとき、法令の変更、法令解釈の変更、技術的な対策の3つの可能性を筆者は想像した。実際のところ、具体的な仕組みはどうなのか。

 「信用供与のとらえ方を再定義した」と青木CEOは話す。それは具体的にどういうことかと聞いたが、企業秘密ということで、これ以上の説明はもらえなかった。ただし法令解釈の変更と理解していいだろう。

 ここに至る中では、技術的な対策も検討したという。例えば、楽天証券はクレジットカードで電子マネー「楽天キャッシュ」を購入し、楽天キャッシュで投信積立を行うことで、クレカ5万円と電子マネー5万円を合わせて、実質10万円のクレカ投資を実現している。同様に、クレジットカードでエポスポイントを購入してもらい、エポスポイントで投信を購入すれば上限を10万円に増やすことも可能だ。ただし今回は、この方法は採らなかった。

 “クレカ積立10万円”の反響は上々だ。発表後、9月の口座開設数は対前年比で65%増加した。ユーザーからの問い合わせも多く「本当に10万円になるのか? 特別な手続きがあるのか?」など関心を集めているという。

 クレカ積立というと、給料の中から毎月積み立てていくイメージもあるが、ユーザーの捉え方はその枠を超えている。「毎月給料の中から10万円を払う人もいるだろう。しかし物価高の中、銀行に100万円預けていても目減りしてしまう。そうした人がクレカ積立を使って、貯蓄から投資へ移行していくのではないか」と青木CEOは見る。

 tsumiki証券に限らず、楽天証券でも「月間5万円よりも多くの積み立てをしたい」という声は以前から挙がっていた。クレカ積立は、各社の競争対象であり、解釈変更で実現できるなら上限をアップさせたいという証券会社も多いだろう。新NISAのスタートに向けて、ネット証券各社の動向にも注目が集まりそうだ。

筆者プロフィール:斎藤健二

金融・Fintechジャーナリスト。2000年よりWebメディア運営に従事し、アイティメディア社にて複数媒体の創刊編集長を務めたほか、ビジネスメディアやねとらぼなどの創刊に携わる。2023年に独立し、ネット証券やネット銀行、仮想通貨業界などのネット金融のほか、Fintech業界の取材を続けている。


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