新時代セールスの教科書

外資の営業は10年前からAI活用 なぜ日本企業の多くはいまだに「蚊帳の外」なのか元・外資営業役員が語る(2/4 ページ)

» 2023年09月28日 08時00分 公開

外資と日本で異なる営業スタイル、AI向きなのは?

村尾: 日本の営業スタイルは独特で、人脈による営業文化が強いですよね。例えば、米国ではメールリストの購入が容易にできることから、関係性がない顧客に標準化されたメールを大量に送ることが一般的です。一方で、日本は地域に根付いた営業が強く、会社の中でも地域ごと・部署ごとにオペレーションが異なる場合もあります。また新人育成では独自化した営業手法をOJTで教えているため、顧客との関係づくりに関してはまだまだ暗黙知になっている部分が多いです。

小松: 評価とマネジメントスタイルにも違いがあります。米国やドイツでも顧客との関係値は当然重要でありながら、基本契約文化で成果にコミットすることが大原則です。そのため、外資では最初に数字を作る人が高評価を受けますが、日本では逆転満塁ホームランが良いとされる文化がまだ残っている印象です。後半まで成果を隠し持つことが好まれる文化を変えない限り、データを活用する機運を高めていくことは難しいのではないでしょうか。

 当時わたしがSAPで感じたこととして、外資は人の入れ替わりが激しく、文化も違えばキャリアの異なる多様な人たちが入ってきます。パフォーマンスが落ちない組織であるために、人材の流動性を前提に戦力を一定標準化する、また結果を出すまでの時間をできるだけ早める仕組みを作っていました。ここにAIの可能性があると考えています。

 例えば、野球チームを作るのに全員が大谷翔平レベルの人材をそろえることは難しくても、高校野球レベルの人が9人いればちゃんとゲームが成り立ちますよね。ビジネスも同じで、持続可能な営業組織を目指して、人材をいかに戦力化させるか、その時間をいかに短縮するかにAIの可能性があるのではないかと思います。

 現状として、AIが学習しやすい営業組織がどうか、つまり構造的で再現性があるデータを保有し活用している組織であるかという意味では、欧米のほうがビジネスカルチャーや制度面では向いていると思います。

外資と日本で異なる営業スタイル、AI向きなのは?

外資企業は本当に業務を自動化できているのか?

村尾: 海外企業の事例を見てみると、例えばビジネスコミュニケーションソフトウェアを提供する米Goto社は、Salesforce、Zoominfo、Outreach を組み合わせたワークフローで全ての営業データをリアルタイムに連携し、さらにAIを組み合わせることでクロージングするまでの見込み客との接点(カバレッジ)が10倍になっています。メールや電話、Linkedinからのリクエストなどの情報が自動的にSalesforceに同期されるオペレーションであり、そのデータ基盤をもとに、AIが成約可能性の高い案件を提案したり、一定の条件下で顧客の行動に対するフォローや御礼メールなどを自動で送付したりするようになっています。

小松: わたし自身は業務プロセスの自動化についての見識は深いものではありません。ただ在職時代、2010年以降のSAPではグローバルでの全取引の中でコンプライアンス的に問題がある可能性や取引においての懸念がありそうな商談をルール設定に基づいて自動的に検出し、チェックするプロセスがありました。

 分析の対象にしていたデータは、CRMでの商談発生時からクロージングまでの過程も含めたデータです。この当時はまだAIを積極的に活用する段階ではありませんでしたが、データが整備されているのでルール設定においてかなり自動化できていました。

 今後はAIの活用により業務自動化、高度化の精度が高まっていくことは疑いようがないと思います。そのためにはまずは業務プロセスの整理、グローバルでの標準化を徹底して進めた企業が、AI活用における恩恵を受けられると思っています。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.