日テレ、ジブリ買収で日本版「ディズニー」に? 戦略と意図は古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2023年09月29日 09時45分 公開
[古田拓也ITmedia]
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日テレは「ディズニー」化を狙っている?

 日テレにとってスタジオジブリの買収は、新たな収益源の開拓と、国際的ブランド力の強化、そしてジブリの世界観を尊重した新作の映画作りを念頭においたものであるとみられる。今までにそのような戦略で成功した事例はあるのだろうか。

 その答えとして最適な事例が、米国のウォルト・ディズニー・カンパニーだろう。同社は、映像制作の分野でさまざまな有名制作スタジオを買収し、それらを今日まで成長させることに成功している。

 有名アニメーションスタジオの「ピクサー」はディズニーに買収された制作スタジオの一つだ。デスクライトが「PIXAR」ロゴの「I」を踏みつけるアイキャッチでもおなじみの同社は、2006年にディズニーによって完全子会社化された。ピクサーは、「トイ・ストーリー」シリーズを筆頭として、00年代における革新的な作品で知られており、多くのヒット作を生み出している。そして、ディズニーによる買収後もピクサーは独立性を保ちつつ、直近では「バズ・ライトイヤー」といったヒット作を生み出している。また、これらの作品はディズニーの運営する配信サイトDisney+でも視聴することが可能となっており、双方にとってシナジーのある結果になった。

 これを今回の事例に当てはめると、ジブリのブランドで製作された新作品が日テレの運営する配信サイト「Hulu」で配信されるような構造であり、ある程度の類似性が確認できる。

 次に、ディズニーが買収したもう一つの製作スタジオは「後継者不在」の懸念を払拭している。

 12年、映画制作会社ルーカスフィルムは、ウォルト・ディズニー・カンパニーに約40億ドルで買収された。ルーカスフィルムは、「スター・ウォーズ」シリーズや「インディ・ジョーンズ」シリーズで知られ、創業者であるジョージ・ルーカスによる世界観やビジョンに基づいた作品作りが大きな特徴であった。ジョージ・ルーカス氏は12年にルーカス・フィルムをしりぞき、ハリウッドの大作映画制作の現場から引退した。

 しかし、その後もジョージ・ルーカス氏が作り上げてきた世界観はディズニーによる買収後もついえることなく、今でも「スター・ウォーズ」シリーズは世界を代表する映像作品として存在し続けている。このように考えると、スタジオジブリが日テレを子会社化するニュースは、ちょうどディズニーによる「ピクサー」と「ルーカスフィルム」の事例をミックスしたような内容であり、いずれの論点においても成功例がある買収事案であるということができそうだ。

photo スタジオジブリの公式Webサイトより

 過去のスタジオジブリ作品は権利関係の問題もあってか、日米の動画配信サイトでは放映されていない。日テレの思惑として、少なくとも今後日テレのイニシアチブで製作されていくジブリ作品は自社の配信サイトHuluを通じて視聴できるようにしたいという意図がうかがえる。また、宮崎駿氏に対する「属人性」の懸念も、ルーカス氏不在のルーカスフィルムが順調であるという成功例から学ことができれば決して乗り越えられない困難ではないと考えているのかもしれない。

 ただし、単純に過去それが成功したという事例を機械的に当てはめるだけでは統合後のシナジーの創出や経営方針の統一には困難が予想される。日テレの経営体制下でも、役員名簿案には「代表取締役」と記載されている役員が福田氏以外にもジブリ側の鈴木氏、中島氏含めて合計3人おり、ジブリ側の方が代表取締役の数が多い状態にある。

 配信サイトに対する価値観や作品の世界観の決定については単に日テレ側が親会社であることだけでゴリ押しし切れるものではなく、議論が紛糾した場合にはこの点がリスク要因になる可能性もある。

 この買収により、スタジオジブリの創作活動に新たな風が吹くか、それとも双方の企業文化やビジネスモデルの差異が障壁となるか、今後の動向が注目される。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら


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