日テレ、ジブリ買収で日本版「ディズニー」に? 戦略と意図は古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)

» 2023年09月29日 09時45分 公開
[古田拓也ITmedia]

 在京キー局の一角を担う日本テレビ放送網が、不朽の名作を数多く残してきたアニメーション制作会社「スタジオジブリ」を買収する方向で進んでいることが21日、発表された。

 日本テレビは10月6日付で同社の株式を42.3%取得し、過半数以上の議決権を保有することで子会社化。代表取締役には日テレ本体から送られた福田裕之氏が新たに就任する予定だ。

photo スタジオジブリの公式Webサイトより

 宮崎駿氏といえば、たびたび引退を示唆してはそれをひっくり返すことが恒例行事と化しており、ファンも親しみを込めて「引退詐欺」ということがある。ただ、当の宮崎氏も82歳。子会社化はこれまでの「口約束」とは明らかに一線を画すものであるため、宮崎氏による相応の覚悟も見え隠れする。

 宮崎駿氏の長男であり、スタジオジブリ常務取締役の宮崎吾朗氏が後継者となるかと囁(ささや)かれていたが、本人がその立場を固辞したこともあって実現しなかったと、発表資料で明かしている。従って、今回の日テレによる子会社化は「後継者不在」ともいうべき状況で行われた。

 SNSでは不安の声も囁かれているが、今回の買収が合意に至った裏側にはどのような戦略や意図があるのだろうか。海外の同様事例なども踏まえて確認していきたい。

日テレとジブリの深い関係

 日テレとスタジオジブリとの関係は非常に深いものであった。これは映画番組の放映権のほとんどを日テレが保持しており、映画作品は日テレ経由でたびたび地上波放送されるためだ。これにより、同社は高い視聴率と広告収入を得ることが可能になった。SNSが発達していくにつれて『天空の城ラピュタ』のような40年以上前の作品が「バルス」というせりふの放映と同時にTwitter(当時)のサーバをダウンさせるほどの一大ムーブメントを支えていたのが日テレというわけだ。

 スタジオジブリの作品は、その独創性と芸術性から世界的にも絶大な人気を誇り、地上波放送にあたっては既存のファンから一般視聴者まで広い興味を集めている。日テレがこれらの作品の放送権を獲得したことで、他のテレビ局との競合において一歩リードする形となり、これが日テレのブランド価値の向上にも寄与したことは言うまでもないだろう。

 スタジオジブリ側にとっても、日テレによる作品の放送は、新作公開のプロモーションや、ブランドイメージの維持、向上に寄与したといえる。日テレがスタジオジブリ作品をプライムタイムに放送することで、幅広い年齢層の視聴者に作品が届き、新たなファン層の獲得や、既存ファンの囲い込みが可能となった。

 これらの相互利益を背景に、日テレとスタジオジブリの協力関係は強固なものになり今回の子会社化が実現した。日テレは「経営の自主性は守る」としているが、創作の自由度や独立性の確保について業界内外からの期待と不安が入り交じっているのが現状だ。

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