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糸井重里74歳、ほぼ日は「僕の最高の作品」 創業した会社をどう残していきたいか?社長が15人の会社も!?(2/2 ページ)

» 2023年10月04日 08時00分 公開
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僕の持っているものが書き換えられても構わない

――糸井社長も74歳。ご自身が創業した会社を、後進に譲る時期にさしかかっているのだと思います。

糸井: まだ具体的にどうなるのかは何も分からないですね。軍団のような、群島のような会社があっても僕はいいと思います。そうなると例えば、社長が一気に15人に増えましたとか、そういうこともありえる。

――事業ごとに横並びの会社が並立する形もありえそうですね。

糸井: ほぼ日はスケールメリットを言うほど大きな会社ではないと思っています。また、そのスケールが大きいことにもメリットはあまりないようにも感じています。大きすぎるつらさはあるけど、大きくて有利だったことってそんなにないので。

 それを考えると、15人が社長の会社っていうのは、次かどうかは分からないけれど、次の次のステップぐらいでは頭に入れておいた方がいいと思いますね。

――創業者の言動や思いを受け継ぐ企業は少なくありません。糸井社長も数々のものを残していますが、どう受け継がれていくと思いますか。

糸井: 残らないものは残らないんじゃないでしょうか。それはもうそういうものだと思います。例えばディズニーみたいな会社は、ウォルト・ディズニーがシンボリックに語られていますけど、彼がそんなにすごい人だったかどうかは実際には分かりません。もしかすると、身の回りにいた人からしたら腹の立つ人だったかもしれない。運の要素もあったし、彼の周りにいた人が頑張った部分もあるのだと思います。

 そう考えると、ディズニーのスピリットが全部残っているよといわれても「それが何だ」ということになります。それはディズニーに限らず、徳川家康であろうが何であろうが同じです。長く続いたものだからすごかったんだ、というところから逆算した発想にどうしてもなりがちです。

 ですから、僕の持っているものなんていうのは書き換えられて構わないんじゃないでしょうか。僕のいないところでどう変わっていくのか。僕は、それを見物する側にいたい。

――見物する側にいたいというのは、見守っていたいということなのでしょうか。

糸井: 「いいな」って言っていたいんですよね。僕は他人がやったことでもいいと思うものは割と素直に「いいな」って言えるんです。だから、こんなに一緒に仕事をしている人たちが「いいな」と思えることをやったら、それがもう一番うれしいですね。社員はアスリートのように育てた人たちですから。その結果、形も何もかも全部変わったとしても全然構わないと思います。

――会社の在り方も、最初は個人事務所的なものから今や120人あまりが働く企業になり、自分だけのものからみんなを幸せにする方向に変わっていったのだと思います。

糸井: 個人が作家性でやることって、実は“飽きる”んですよ。ある程度のものを生み出せたら同じことの繰り返しにもなりがちです。特に作家性で一生懸命やってきた人たちというのは、それがつまらなくなるときが来るんですよね。

 そう考えると「ほぼ日が一番の作品」というのは本当にその通りなんです。やっぱりチームプレーほど面白いものはないですよ。人間の根源的な喜びがそこにあります。個人を出していくよりも、何十倍も楽しいですよね。

――プロ野球の野村克也監督は「金を残すは三流、仕事を残すは二流、人を残すは一流」を座右の銘としていました。いろいろな経営者にインタビューすると、いつもこの哲学に行きつく気がします。

糸井: そうですね。その名言一つにしても、誰が作ったのか分からないものが多くあります。例えば「急がば回れ」って誰が言ったかは知らないけれど、本当にそうだなと今でも考えさせられます。言葉ってひとりでにそうやって残るんですよね。中には、真相としては、仕方がないからそう言ったという言葉もあるはずです。「ほぼ日の學校」でやろうとしていることも、実はそこだったりします。

――「ほぼ日の學校」では、有名無名にかかわらず、多くの人を招いて授業をしていますね。

糸井: 映像と言葉で後世に残す狙いもあります。お笑いの人から学者から、うどん店の店主までさまざまな人を呼んでいますが、この中から1000年後にも本当に残る人がいたらいいなと思いながらやっています。

 「ほぼ日の學校」って社内に向けた意味もあったりします。一人でも多くの社員に数多くの面白い人に会わせることで、アスリートとして鍛えられたらいいなと思っています。正直儲(もう)かりはしない取り組みではあるのですが、この無形の財産はすごいですよ。これをやるだけ、僕らが新しいコンテンツを生み出すときの原動力に全部なりますから。植林事業をしているような感じですね。

――一見「遊んで」いるように見えても、社員のことをいろいろと真面目に考えているんですね。

糸井: 会社を立ち上げた当初はストイックな天才クリエイター集団を夢見ていたように、僕は根が真面目なのだと思います。だから「もっと遊ぼう」と自分で心掛けていないと、ただの真面目になっちゃうんですよね。

――真面目にならないように真面目に「遊んで」いるのですね。

糸井: そうです。家で言われるのですが、僕は今のように社長業をするまで寝言を言っていなかったそうなんです。ところが、ほぼ日が軌道に乗り始めてから寝言を言うようになって、「その寝言がえらい真面目」らしいんですよね。

――根はストイックで真面目な糸井社長が、社員をお客さんとしてもてなすために真剣に遊ぶ会社がほぼ日ということなんですね。

糸井: 正直言うと、僕が何か考え事をしているときは、寝ているときでもぱっと目が覚めて、降ってきたアイデアを慌ててメモすることもあります。そういう人間が「ふざけたことをやりましょう」と言ってやっているのが、ほぼ日という会社なのだと思います。そろそろ僕も見物する側に回りたいとは思いますが、多くの人にこれからも見守っていてほしいですね。

累計販売部数が1000万部を超えた「ほぼ日手帳」。2024年版のMOTHERシリーズ。©Nintendo / SHIGESATO ITOI / APE inc. ©1994 Nintendo / APE inc.
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