ロールプレイングゲーム「MOTHER」シリーズの生みの親として知られるコピーライターの糸井重里さん。糸井さんが代表取締役社長を務める株式会社ほぼ日(東京都千代田区)では、「ほぼ日手帳」が年間82万部を売り上げている。売り上げの海外比率が4割を占める世界的な人気を誇る商品に成長させた。そして手帳の売り上げは、ほぼ日全体の売り上げの約6割を占める 。
実は、ほぼ日は社内のエリート人材を手帳部門に回すという人事配置をしていない。一人でも多くの社員に活躍の場を与えることを考え、柔軟なチーム体制を構築していることが特徴だ。これは社員の名刺に部署名が書かれていない点にも表れている。
同社はもともと「東京糸井重里事務所」という個人事務所だった。それが、なぜ従業員数100人超えの上場企業に成長できたのか。その経営手腕について、ほぼ日代表取締役社長の糸井重里さんと、取締役の小泉絢子さんに聞いた。
――近年「ほぼ日手帳」は海外でも人気で、売り上げ増の要因にもなっています。何が決め手だったのでしょうか。
糸井: 最初のうちは「ほぼ日」のファンなど目の前の人に向けてアピールしてきたつもりでしたが、正直もうここまでくると何が良くてこうなったのかは分からないですね。例えるなら、プロ野球選手の大谷翔平の両親が、大谷翔平をどう作ったかって言わないじゃないですか。あれと似ている気がしています。
つまり「こうすれば大谷翔平ができる」っていうことを言う人って、どこかウソなんだと思うんですよね。そんなに思った通りにはいかないわけです。もちろん、時にはそういう事業もあるとは思います。ただ僕らは会社の中で、一種のアスリートを作るようなつもりでやっています。
――アスリートを作るとは具体的にどういうことでしょうか。
糸井: どんな鍛え方をして、どういう気立てを持って、どこを伸ばすのか。逆に何をしないかを決めることですね。それで、少しずつでも向上していったら、その人はどこにでも雇われるようになると思うんですよ。そうしたら、そのアスリートは「今度バスケットを手伝ってくれないか」っていわれたら「いいよ」っていえるようになる。そういう会社作りをしてきました。
――オールマイティーを目指すこともあって、「ほぼ日」の社員の名刺には肩書きがないわけですね。
糸井: チームとしての助け合いもありますしね。「ほぼ日手帳」は、今や三代にわたって愛用くださるような人がそろそろ出てくるわけです。もちろん最初からそれを狙ったわけではないんですけど、そういうコンセプトでやってはいたので、今後も伸ばし続けるためにも、ここに責任を持てるアスリートでいたいという思いはあります。
――アスリートのように社員を育成しているとのことですが、採用するときは人材のどの部分を見ているのでしょうか。
糸井: 組織として弾力性は維持したいと考えているので、基準や考え方をピタッとさせないようにしています。人は前提として、悪いやつでなければ大体伸びるんですよ。自分のことばかりを考えている人は、どんなに優れているように見えても、うちでは難しいですね。
――小泉取締役は、糸井社長のリーダーシップをどのように見ていますか。
小泉: 私は学生時代から糸井が唯一の上司なんですけど、本当によかったなと思っています。まず理不尽なことが一切ないです。弊社に転職してきた人も、うちの会社には不合理とか不条理とかがないという声を聞きます。糸井が「こうしよう」と言って決断を下す場面でも、それに「えっ」っていう疑いを持たなくていいストレスのなさは感じますね。
――糸井社長は普段から社員とフラットな関係を築いているのですね。
小泉: 私は学生の時から、そのことを当たり前のように思っていたのです。でも外から来た人から「それは当たり前ではない」といわれて、はっとさせられました。あとは、糸井が社長として社員たちを飽きさせない努力をしていると思います。糸井が意識的にやっているおかげで、25年近く一緒にいて飽きない楽しさを仕事に感じています。
常に何か新しいこと、今日より明日を面白くしようとか、そういう意識を社長が真っ先に実践しているので、「ほぼ日」が恵まれた環境にあるのだとすごく感じていますね。
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