マーケティング・シンカ論

パンはどこでも買えるのに、3990円のサブスクがなぜ人気? UX観点からワケを考えるグッドパッチとUXの話をしようか(3/3 ページ)

» 2023年10月06日 08時30分 公開
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パン屋とユーザーの「気持ちや想い」までも考えている

 ただし「売り上げ拡大」といっても、闇雲に拡大しているわけではありません。大事なのは、わざわざ月額3990円を払ってまでおいしいパンを食べたい人たち――つまりは「パンに思い入れのある層」に届けられることです。

 「パンスク」で届いた箱を開けると、まず目に飛び込んでくるのは、パン屋からのメッセージカードです。パン屋の名称や所在地だけでなく、まるで手紙のような、パンへの想いのこもった文章が綴(つづ)られています。

メッセージカードが同封された箱が届く(画像:パンフォーユープレスリリースより)

 こうして、おいしいパンを食べるだけでなく「今月はどこの、どんなパンだろう?」とワクワクする体験が生まれています。それはパンに対する思い入れがあるからこそ起きていることです。

 メッセージカードはパン屋にとっても重要な意味を持ちます。毎日毎日、1個ずつ思いを込めて丁寧に作るパンだからこそ、ちゃんとおいしく食べてほしいもの。無機質に、システマティックに流通されるだけでは、きっとパンスクを選ばなかったパン屋もいるはずです。

 パンスクに限らず、新しくサービスを創るときには「何ができるのか」という「機能的価値」を考えるだけでは不完全。「どのような気持ちになってほしいのか」、つまり「情緒的価値」もセットで考えることが重要です。機能だけでは人は動きません。

 先ほど「あらゆるステークホルダーの体験を考えることが大切」と述べましたが、それは情緒的価値についても同様です。

 ユーザーにとっての潜在的な価値がかなえられ、それと同時にパン屋の課題も解決されていく。そんな仕組みがあるからこそパンスクはうまく回っていますが、離脱せずに継続利用しているのは「気持ちや想い」の側面が大きいのです。

 そのサービスを通して、どのような体験をしてほしいのか。その時にどんな気持ちになってくれるのか。機能だけでなく情緒面まで考え抜くことが、人気になるサービスを創るための絶対条件なのでしょう。まずは皆さん自身が愛用しているサービスの「情緒的価値」を考えてみることから始めてみると面白いのかもしれません。

著者紹介:高階有人

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株式会社グッドパッチ UX/サービスデザイナー。大手SIerにてシステム開発やデジタルビジネス企画を経験。その後コンサルティングファームにて、官公庁向けのITコンサルティングや調査研究に従事。2021年にグッドパッチにUX/サービスデザイナーとして入社。暮らしや仕事になじんでいくサービスを生み出すことを信条としている。趣味は音楽とアイスランド。


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