「批判もあったが実行した」 比叡山延暦寺、8年間のDXの取り組み伝統とデジタル(1/4 ページ)

» 2023年10月10日 08時00分 公開
[伏見学ITmedia]

 頭をきれいに丸めた小学生が、神妙な面持ちで僧侶となるための儀式・得度式に臨んでいる。Instagramに投稿されたこの写真に「いいね」が3400件以上もついた。そのほかにも多くの「いいね」を集める写真がいくつも並ぶ。

 このInstagramアカウントを運営するのは、天台宗の総本山、比叡山延暦寺。説明するまでもなく、日本で最も有名な寺だといっても過言ではないだろう。なお、延暦寺はX(旧:Twitter)もやっており、開設当初、織田信長に扮するアカウントからの投稿によって大いにバズった。

比叡山延暦寺の大講堂(筆者撮影、以下同)

 今でこそ神社仏閣がSNSの公式アカウントを持っているのは珍しくないが、「日本仏教の母山」と呼ばれ、他の寺以上に厳粛なイメージが強い延暦寺が積極的にSNSを駆使しているのは耳目を引く。

 SNSがきっかけで人気に火がついた商品もある。宿坊延暦寺会館の喫茶店で提供している「梵字ラテ」と「梵字テラミス」だ。これを目当てに今まで延暦寺とは無縁だった若い観光客も訪れるようになった。そして、彼ら、彼女らが“インスタ映え”するような投稿をすることで、さらに拡散。商品の売り上げ増にもつながっているようだ。

 延暦寺がデジタル化に舵を切ったのは8年ほど前。なぜこうした動きを活発化させているのだろうか。理由を探るため比叡山に向かった。

200人が働く組織をデジタル化

 京都市内からクルマで北東に向かうこと1時間弱、蛇行する山道を抜けた先に延暦寺はある。訪れたのは平日朝だったが、既に駐車場には大型バスが停まり、老若男女の観光客が自由気ままに散策していた。

 取材場所となった延暦寺会館からは琵琶湖が一望できる。この絶景を見ながら「梵字ラテ」を飲むのが流行っていると、延暦寺の参拝部長兼延暦寺会館館長の今出川行戒氏は教えてくれた。

 一般の人々にとって寺の運営実態はほとんど知る由もないが、延暦寺ほどの規模になると、僧ではない一般の職員も含めて約200人が働いている。部署も法務部、参拝部、教化部、総務部などいくつにも分かれている。中小企業をイメージしてもらうといいかもしれない。

 近年、延暦寺でのデジタル活用を推進してきたのは、総務部と参拝部。前者は人事や各種契約、対外的なやりとりなど運営全般を管理する。後者は主に参拝者の接遇など来訪者向けのさまざまなアプローチを考える部門である。現在リーダーを務めるのが総務部部長の小鴨覚俊氏、そして前出の今出川氏だ。まさに両人が延暦寺のデジタル化の旗振り役といえる。

デジタル化の旗振り役となった小鴨覚俊氏(左)と今出川行戒氏
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