日高屋が「390円そば」価格を死守したのに、史上最高売上を叩き出したワケ古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2023年10月13日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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 同社の最終益自体は22年2月期の時点で既に15億7900万円に黒字転換していたが、これはコロナ関連の助成金による部分が大半であり、営業利益自体はコロナ禍中は赤字続きであった。しかし、今期には他の飲食店に先立って補助金頼りではなく、本業の成果として大幅な黒字転換を達成している点が興味深い。

 日高屋が厳しい環境においても消費者の支持を集めることができた理由は、基本戦略を守り続けてきたことにあるだろう。低価格路線をフックに新規顧客を集客し、キャンペーンやクーポンなどを通じて顧客のリピート率を高めてきた。

 ライバルの飲食チェーンが相次いで値上げに踏み切る中で、相対的に値上げ幅が小さい日高屋には新規顧客やしばらく足を運んでこなかった顧客を新たに取り込むきっかけとなっている可能性がある。

 日高屋の看板メニューである「中華そば」はいまだに390円という価格を死守している。今の時代、ラーメンといえばコンビニで買えばカップ麺でも300円台の商品もあり、電子レンジで調理するタイプは500円を超えていることも珍しくない。ついついデザートやドリンクにも手を伸ばす「ついで買い」を含めると、最近ではコンビニだけでなくスーパーでも1000円近い会計になる消費者も多いのではないか。日高屋は飲食店でありながら、スーパーや小売店よりも場合によっては安いという立ち位置にいるともいえる。

photo 「中華そば」は390円で価格を据え置いている(同社公式Webサイトより)

 つまり、本来外食にはあまり興味を示さず、コンビニやスーパーで昼食や夕食の総菜を調達するという「中食」を基本とする消費者層の間にも、相次ぐ値上げにより「コンビニより日高屋の方がコスパが良い」といった認識が広がり、相対的なコスパの良さに惹かれた新たな潜在顧客を獲得することも可能となっていると考えられる。

 最後に見逃してはならないのが、デリバリーサービスの充実だろう。日高屋のデメリットといえば、狭小な店内と男性顧客が多いことにあり、いくら低価格でも女性やファミリー層にとっては気軽に入店することが難しいイメージが先行していた。しかし、デリバリーであれば、低価格を好む女性層やファミリー層の需要も合わせて取り込むことができ、今までタッチできていなかった潜在的な顧客層を確保する上で役立っているのだ。

リーマンショックでも、日高屋は消費者の受け皿となっていた

photo 日高屋

 日高屋の業績は景気動向に左右されにくい、いわゆる「ディフェンシブ」な性質を有していながらも、景気が良い時にはその波に乗って伸びるという特徴を有している。

 リーマンショックからアベノミクス始動にかけてのハイデイ日高と日経平均株価を比較しよう。日経平均株価が本格的に下げ足を強めた09〜10年頃に、ハイデイ日高はすでに大底を形成し、いち早く反発している様子がうかがえる。

 その後はアベノミクスを追い風に、日経平均がリーマンショック前に戻るまでに同社の株価は270%も上昇していた。その後、日高屋の回復を好感した株式市場は、足元で史上最高値となる3095円を記録している。これは10年の同社株価である300円台から約10倍にも達しており、日本の株式市場でも数少ない「テンバガー」になっている。

 日高屋の低価格路線は、景気後退局面において「質より価格」を重視する消費者にとってその需要を捉える受け皿となり、他の高付加価値な飲食店などと比べて客足をつなぎ止めることに役立った。また、13年からの株価上昇からもうかがえるように、低価格路線は景気拡大局面においても、その波に乗って業績を拡大することが可能であり、最終的に全体的な指数よりも良好なパフォーマンスを生み出したというわけだ。

 アフターコロナのインフレでは、円安によって最高業績を出す大企業が多く、決して景気が悪いというわけではないが、実質賃金が低下して消費者が苦しんでいるタイミングでもある。そんな状況下で日高屋の株価が史上最高値を更新している背景には、リーマンショックのような過去の景気後退局面においても顧客に選択され続けてきたという歴史が、市場参加者の目に映っているからかもしれない。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら


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