リテール大革命

経営者に物流コストを「直視」させる方法仙石惠一の物流改革論

» 2023年10月18日 11時42分 公開
[仙石惠一ITmedia]

連載:仙石惠一の物流改革論

 物流業界における「2024年問題」はすぐそこまで迫っている。この問題を克服するためには物流業の生産性向上以外の道はない。ロジスティクス・コンサルタントの仙石惠一が、運送業はもちろん、間接的に物流に携わる読者に向けて基本からノウハウを解説する

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経営者に物流コストを自覚させよう(写真はイメージ)

 今年の5月以降、メディアが一斉に2024年問題について報じ始め、国民の目が物流に向けられ始めた。

 日本人の物流に対する関心は、全くといっていいほど薄い。その国民の関心を少しでも物流に寄せたことは大いに評価できる。わずか7%に過ぎない通販物流にばかり報道内容が集中したことは、ミスリードの感がぬぐえないが、それでも良しとしよう。

 時を同じくして、企業側も物流に関心を寄せ始めた。批判を恐れずに言わせていただくと、日本の企業もまた物流に無関心だった。サプライチェーンにおける企業活動ではほぼ100%物流が発生する。製造業を例に取れば材料調達、生産活動、販売活動のいずれの過程で必ず物流が発生する。しかしその物流をコントロールする人材を十分に配置していなければ、育成もしていない。だからこのような有事にあたふたしてしまうのだ。

 今後も永続的にサプライチェーンを維持していくためには物流組織と物流人材の獲得や育成を強化する必要がある。一方経営者は、自ら積極的にそのような行為を実施するだろうか。恐らく、実施しないだろう。なぜなら今の物流の実態が分からないので、どうしたらよいのか決断できないのだ。

 そこで皆さんに実施していただきたいことがある。それが今回のテーマである「物流の見える化」だ。会社の物流をどうこうする前提として、今の物流ってどうなっているのか? という疑問に答える必要がある。それが見えればまともな経営者だったらアクションを取らざるを得ないだろう。

経営者に物流コストを「直視」させる方法

 まずやるべきことは企業サプライチェーン上に存在する「物流的要素」を洗い出すことだ。

 例えば材料調達工程では「材料輸送」「材料の容器(荷姿)」「発注指示情報」「材料受け入れ場」「材料検品」「材料置場」「材料運搬」「運搬機器」「材料在庫管理」「材料在庫管理用情報システム」「伝票」「材料発注担当者」などが物流的要素として存在する。

 このようにサプライチェーン上の機能ごとにいったん物流的要素を洗い出して見える化してみよう。できるだけ漏れなく網羅性を上げることが重要なポイントだ。

物流的要素別コストを見える化せよ

 次に各要素のコスト認識を行う(図1)。はっきり言ってこのプロセスは容易ではないかもしれない。少し時間がかかっても良いので根気よくやっていこう。

さまざまな物流コスト

 先ほどの例で少し考えてみる。まず「材料輸送」にかかるコストだ。これは、調達部門の担当者が材料メーカーと価格交渉する際にきちんと把握すべき項目であるため、その人がデータを持っている可能性がある。例えば材料Aの1キログラム当たりの輸送費は2円である、というデータだ。

 調達価格を決める際に内訳をブラックボックスにしていると、結構骨が折れることになる。材料1キログラムあたり40円という、全てコミコミの契約価格しかないケースだ。この場合は、材料メーカーに材料費に含まれる物流コストがいくらかをヒアリングすることになる。

 「材料検品」であれば、検品を行うための人件費ということになる。材料1キログラムあたりの検品時間を調べる。それが仮に20秒だったとしよう。人件費が1分あたり60円、1秒あたり1円とすれば、材料1キログラムあたりの検品コストは1円×20秒で20円/キログラムということになる。

 「材料運搬」コストは、納入された材料を材料置場まで運ぶことに要するコストだ。これも人件費で測定してみよう。200キログラム入りの容器を100メートル離れた場所まで運んで元の位置まで戻るのに1分42秒かかるとしよう。そうすると1秒1円の人件費のため、この時間のコストは102円、1kgあたりにすると102円÷200キログラムで51銭/キログラムとなる。

 あとは同様にコツコツと調査を進める。そうすれば会社の物流コストの全体像が見えてくる。ここで大切なことは、会社全体でどれくらいの物流コストが発生しているのかを把握することにある。

 調査の過程で困難に遭遇することもあるだろう。その場合は、先ほどの例のように精度の良いデータが取れないことも想定される。

 その場合は、概算でも構わないのでコストを把握できるよう努力していただきたい。例えば材料費の5%を物流費と一時的に見なしてしまうこともありだ。参考までに、日本企業の売上高に対する物流コストの比率は「把握できる範囲」では5%だ(図2)。ただしこれ以外に把握しきれていない分が4%程度あると推測されることには注意が必要だ。

売上高に対する物流コストの比率推移

経営者に報告し認識させる

 物流コストが把握できたら、それを経営者に報告しよう。年間物流コストがいくら発生しているのか、そのコストは年間売上高に対して何%なのかを数字で示そう。

 産業や企業によって差が出ると思うが、おそらくこの比率は8.5〜9%程度になると思われる。同時に皆さんの会社の売上高に対する営業利益率を算出して上記比率と比べてみてほしい。

 もしかすると、物流コスト比率の方が利益率より大きくなる可能性がある。そうだった場合、経営者はその事実に驚き「これは物流を何とかしなければならない」と考えるだろう。ここが物流改善のスタートポイントになる。経営者の物流関心度が高まった時点で彼らの力を借りながら実改善に着手しよう。

著者プロフィール:仙石 惠一(せんごく・けいいち) 

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合同会社Kein物流改善研究所代表社員。物流改革請負人。ロジスティクス・コンサルタント。物流専門の社会保険労務士。

1982年大手自動車会社入社。生産管理、物流管理、購買管理を担当。物流Ierの経験を生かし荷主企業や物流企業の改善支援、各種セミナー、執筆活動を実施。

著書『みるみる効果が上がる!製造業の輸送改善 物流コストを30%削減』(日刊工業新聞社)『業界別 物流管理とSCMの実践(共著)』(ミネルバ書房)

その他連載多数。

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