リテール大革命

EC化率「45%の中国」と「13%の日本」 3倍超の差がつく納得の理由がっかりしないDX 小売業の新時代(1/4 ページ)

» 2023年09月19日 07時00分 公開
[郡司昇ITmedia]
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連載:がっかりしないDX 小売業の新時代

デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。

 大手の食品小売業ではここ数年、1万坪級に及ぶネットスーパー専用の大型配送センターを開設する動きが顕著になっています。

 2023年7月10日にイオンネクストが開業したオンラインマーケット「Green Beans」(グリーン・ビーンズ)の新物流拠点「誉田CFC」(千葉市)は、50店舗の需要をカバーするということです。ライバルであるイトーヨーカドーも、半径30キロメートルをカバーする3万6456平方メートルの「イトーヨーカドーネットスーパー新横浜センター」を23年中に開業します。

 専用センターは、店舗の在庫から利用客を避けながらピックアップするのに比べて圧倒的に効率的であり、ロボット導入を含めた機械化が容易です。一方、少なくとも数十億円規模の投資になるため、企業としては失敗が許されない取り組みです。

 欧米や中国には、ネットスーパー専用の大型センターやEC運営の先行事例があります。国内の小売企業がEC運営を成功させるために、海外の事例から押さえておくべきポイントを探ります。

小売企業がEC運営を成功させるために海外の事例を探る。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

著者プロフィール:郡司昇(ぐんじ・のぼる)

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20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。

現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」顧客体験(CX)部会リーダーなどを兼務する。

公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇

公式Twitter:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質: 小売業5.0



CFC運営が一筋縄ではいかない理由

 米食品スーパー大手のクローガー。同社は100億円以上の投資を行って自動化もされたCFC(セントラル・フルフィルメント・センター:大型自動倉庫)を展開する世界最大の食品小売業です。18年に英ネットスーパー、オカドと提携し、現在7カ所にCFCを拡大しています。

 しかし、決算資料などで明確な成果については記述されていないのが現実です。当初、投資回収を4年で計画しているということでしたが、順調とは限らないのでしょう。

 投資を回収できるだけの需要があるならば、自動化された大型センターは理にかなっています。日本においても必然的に需要が大きな地域での取り組みになります。

 問題は人口密度の高い地域において、周辺数十〜百数十キロメートルの認知を獲得し、利用促進できるかという点です。小売大手各社が人口密度の高い同じ地域をマーケットに大型センターを展開するため、シェア獲得は容易ではありません。利用客を獲得するための販促費用も莫大な金額になります。

 また、人口密度の高い地域では、生活者の自宅近くに実店舗もあることを忘れてはなりません。子育て中などでネットスーパーニーズが高い家庭以外からも受注を獲得するためには、品ぞろえ・品質・価格面で実店舗を上回る必要があります。大型センターからの出荷であれば品ぞろえで上回ることは容易ですが、配送コストがかかるため価格面で上回ることは困難です。

 したがって、大型ネットスーパー専用センターは、利用客獲得のために採算を度外視した値引き販促費が、開業から数年間投入されることが予想されます。必然的に赤字運営になり、多少とはいえ圏内の実店舗にも影響が及ぶでしょう。

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