リテール大革命

物流を「コスト」と見なす人に欠けている視点仙石惠一の物流改革論(1/2 ページ)

» 2023年09月20日 09時53分 公開
[仙石惠一ITmedia]

連載:仙石惠一の物流改革論

 物流業界における「2024年問題」はすぐそこまで迫っている。この問題を克服するためには物流業の生産性向上以外の道はない。ロジスティクス・コンサルタントの仙石惠一が、運送業はもちろん、間接的に物流に携わる読者に向けて基本からノウハウを解説する

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写真はイメージ(提供:ゲッティイメージズ)

 日本において、企業経営における「物流」とはどう見られているのか? 早速だが、図1をご覧いただきたい。これは経済産業省が公表した、各企業の「経営戦略における物流の位置付け」の調査結果だ。

経営戦略における物流の位置付け

 最も多い回答は「コストダウン重視の業務」で、52.6%という高い比率を占めている。この考え方は分からないでもない。なぜなら、企業の売上高に対する物流コストは約5%と大きな比率であるからだ。5%の営業利益率を恒常的に出し続けることは容易ではない。一方で、もし物流コストを下げれば、それは直接利益を押し上げることにつながる。直接的に付加価値を生まない物流コストを下げていくという認識は間違っていない。

 しかし全ての物流をコストと捉え、削減の対象としてしまうと経営を誤った方向へ向かわせかねない。物流をコストとして考える傾向は日本では顕著だ。欧米のロジスティクス重視の経営姿勢とは大いに異なるところである。

物流を「コストダウンの対象」と見ている人が知らないこと

 工場における物流管理の基本は、物流を「サービス業」として取り扱うことだ。工場では、いかにしてものづくりの効率を向上させるかが大きな命題だ。他社に打ち勝つためには高品質、低コスト、短納期で対応することが求められる。

 物流もまた同様に、この命題に応えていく必要がある。もちろん直接的に付加価値を生まない物流は極力小さくあるべきだろう。しかしものづくりを支える過程で取り組むべき最低限の物流を実行するためのコストは必要だ。

 よく物流コストと生産コストをてんびんにかけ、物流のサービス水準を決定することがある。一つ例を挙げて考えてみよう。

 ある生産工程に物流が部品を供給しているとする。サプライヤーからの調達荷姿(にすがた、荷物を運搬する際の外観)のまま工程に払い出しているが、その荷姿が大きいため、工程作業者が部品を取り出すために歩行が発生してしまっている。また、荷姿の奥の部品を取り出すために工程作業者の動作として「伸び上がり」が発生しているとする。

 この状況を改善するために、調達荷姿から「取り出しやすく、伸び上がりが不要な供給用荷姿」に変更要望が出たとしよう。この効果として、工程では歩行と伸び上がりの削減で1台生産するにあたり3秒削減できると主張する。一方で、物流では荷姿変更のため1台あたり4秒かかるとする。

 この場合、トータルで工数増となるためこの改善は実行しないという決定が下されることがある。両者をてんびんにかけた結果、「もうからない」と判断されたからだ。

 このような判断は分からないわけではないが、正しいともいえない。なぜなら、物流として工程に対する最低限のサービス(図2)を提供していないからだ。もともとの物流のサービスレベルが低すぎたと考えるべきである。私たちは工場物流を設計する際には物流サービスレベルを定め、それに基づき実作業を行わせなければならない。

物流における最低限のサービス(例)

 ものづくりの効率向上に寄与し、工場全体がもうかるのであれば、物流にコストをかけるという選択肢もあるべきだ。物流を単なるコストとしてではなく、サービス業として捉えることで、見方は変わってくるものだ。

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