「六甲のおいしい水」はどこへ? “水買いブーム”の先駆けを、店舗で見なくなった理由長浜淳之介のトレンドアンテナ(2/5 ページ)

» 2023年10月24日 08時55分 公開
[長浜淳之介ITmedia]

 日本ミネラルウォーター協会(東京都千代田区)によれば、「六甲のおいしい水」が発売された1983年における日本のミネラルウオーターの国内生産・輸入の数量は、国内生産が8万9000キロリットル、輸入1036キロリットルで、合わせて9万36キロリットルであった。

 2022年は、国内生産446万1325キロリットル、輸入24万9636キロリットル。合わせて471万961キロリットルとなり、過去最高を3年連続で更新した。1983年と比較すると、約40年間で50倍を超えるスケールにまで成長した。

 現在、ナチュラルミネラルウオーターのトップブランドで、全清涼飲料水中の売り上げトップクラスである「サントリー天然水」の前身、旧「南アルプス天然水」が発売されたのは、91年だ。

「サントリー天然水」は、六甲のおいしい水のライバルとして立ちはだかった(出所:サントリーホールディングス公式Webサイト

 同年の国内生産は24万4000キロリットル、輸入3万4686キロリットルで、合わせて27万8686キロリットル。8年前と比べると、ミネラルウオーターの市場は数量ベースで約3倍にまで成長していた。これほどまでの発展を牽引したのは、間違いなく「六甲のおいしい水」であったといえるだろう。

 この間に海外から、フランス・ダノン社の「エビアン」が参入。87年から、カルピスと伊藤忠商事と味の素の合弁会社であるカルピス伊藤忠ミネラルウォーターが輸入販売していた。現在では、伊藤園と伊藤忠商事の合弁会社である伊藤園・伊藤忠ミネラルウォーターに販売権が移っている。エビアンは硬水であり、「六甲のおいしい水」や「南アルプス天然水」とは違うマーケットを開拓したといえよう。

87年に進出してきた「エビアン」(出所:エビアン公式Webサイト)

 94年には、大塚ホールディングスの100%子会社、大塚食品(大阪市)が「クリスタルガイザー」の輸入販売を開始。ともに大塚グループの傘下にある、米国カリフォルニア州のクリスタル・ガイザー・ウォーター・カンパニーとCGロクサーヌLLCのブランドである「クリスタルガイザー」は軟水であり、硬水のエビアンとは差別化されている。

軟水の「クリスタルガイザー」(出所:大塚食品公式Webサイト)

 2009年には、日本コカ・コーラが「い・ろ・は・す」を発売。後発だけに環境に配慮し、リサイクルしやすく潰しやすい、また軽量のペットボトルを採用するなど「ロハス」を意識したブランディングを展開。20年3月からは、100%リサイクルペット素材を用いた、次世代ペットボトルの商品を販売している。

後発ながら「エコ」を武器に人気を博する「い・ろ・は・す」(出所:日本コカ・コーラ公式Webサイト)

 このように、ハウス食品が「六甲のおいしい水」の生産販売権を譲渡した10年頃までには、現在日本で販売されている主たるナチュラルミネラルウオーターのブランドが出そろっている。かつては「六甲のおいしい水」しかなく、ひとり勝ちしていたハウス食品であるが「水が商売になる」と分かってくると、清涼飲料水の大手メーカーがこぞって参入してきたわけだ。

 10年のミネラルウオーター国内市場は、国内生産が209万8950キロリットル、輸入は41万8975キロリットルで、合計すると251万7925キロリットルに上る。1983年と比較して30倍近く、91年との比較でも10倍近く、生産・輸入の数量が増えた。21世紀をまたぐ20年間で、ミネラルウオーターはすっかり市場に普及したといえる。これまでは水道水を飲んできた日本人が「水を買って飲むのが当たり前」になるという、大きな購買行動の変化が起こったのだ。

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