「六甲のおいしい水」はどこへ? “水買いブーム”の先駆けを、店舗で見なくなった理由長浜淳之介のトレンドアンテナ(1/5 ページ)

» 2023年10月24日 08時55分 公開
[長浜淳之介ITmedia]

あの話題は今:

かつて一世を風靡(ふうび)した商品やサービスはなぜ生まれ、その後どうなったのか? また、話題になった企業の取り組みは、現在どう進化しているのか。流行の背景、ビジネスとして成功した理由、生き残り策などに迫る。


 1983年、日本における家庭用ナチュラルミネラルウオーターの先駆けとして発売され、ヒットした「六甲のおいしい水」。しかしながら、最近だと東京はもちろん、東日本で見かけることがなくなった。いったいどこに行ってしまったのか。終売したのか。不思議に思っている人も、多いのではないだろうか。

家庭用ナチュラルミネラルウオーターの先駆けだった、六甲のおいしい水(出所:アサヒ飲料公式Webサイト)

 「六甲のおいしい水」の開発・販売元はハウス食品(現・ハウス食品グループ本社)だった。しかし、2010年に、アサヒビール(現・アサヒグループホールディングス)の100%子会社で、清涼飲料水部門を担うアサヒ飲料に生産及び販売事業権が移った。

 そして、アサヒ飲料のミネラルウオーター事業再編により、12年に「アサヒおいしい水」ブランドが立ち上がった。西日本では「アサヒおいしい水 天然水 六甲」、東日本は「アサヒおいしい水 天然水 富士山」として販売されるようになって、現在に至っている。一部、自動販売機で販売されている商品では、単に「アサヒおいしい水」とラベルが貼られたものもある。

「アサヒ おいしい水 天然水 六甲」(提供:アサヒ飲料)
「アサヒ おいしい水 天然水 富士山」(同前)

 「アサヒおいしい水 天然水 六甲」は、ハウス食品が建設した神戸市内の採水地を引き継いで製造・販売している。採水地は「六甲のおいしい水」と同一である。

 ただし、2カ所あった採水地のうち、当初の灘区篠原南町にあった灘採水場は既に閉鎖されており、04年に建設した西区井吹台東町の六甲工場で生産されている。灘採水場は六甲牧場という、かつて存在した乳業メーカーの工場跡の井戸を活用した。

 一方で、生産ラインを見直し東日本向けの製品として発売した「アサヒおいしい水 天然水 富士山」は、静岡県富士宮市の富士山工場に採水地がある。単に「アサヒおいしい水」と表示された商品は、山梨県富士吉田市で採水している。

 「アサヒおいしい水」の立ち上げの際には、元々アサヒ飲料の製品であった「アサヒ 富士山のバナジウム天然水」も組み込んで、ブランドを再編した。アサヒ飲料の公式Webサイトの記事「『六甲のおいしい水』の継承と『アサヒ おいしい水』の発売」によれば、09年における「六甲のおいしい水」の市場シェアは約7%、「アサヒ 富士山のバナジウム天然水」は約3%であった。

「アサヒ おいしい水」は、深井戸水を製品化している(出所:アサヒ飲料公式Webサイト)

 「六甲」と「富士山」の販売エリアの境界は、京都府・滋賀県・三重県より以西が「六甲」。福井県・岐阜県・愛知県以東が「富士山」となっている。ただし、スーパーなど小売業者の営業エリアが境界をまたぐケースがあり、両方売られている地域も存在する。

 従って、「六甲のおいしい水」は今も、ブランド名を「アサヒおいしい水 天然水 六甲」と変え、西日本限定の商品として販売されていたわけだ。しかも、アサヒ飲料の主力商品の一つである。

国内ミネラルウオーター業界の歴史とは

 再び歴史をさかのぼり、ここからは、「六甲のおいしい水」が開発された時代背景を見ていこう。

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