「六甲のおいしい水」はどこへ? “水買いブーム”の先駆けを、店舗で見なくなった理由長浜淳之介のトレンドアンテナ(4/5 ページ)

» 2023年10月24日 08時55分 公開
[長浜淳之介ITmedia]

六甲のおいしい水がヒットした理由

 最後になぜ、「六甲のおいしい水」はヒットしたのかを見よう。いくつかの理由が考えられる。

 まず、歴史的に「神戸の水はおいしい」といった定評があった。幕末の1868年に、神戸港が開港。諸外国が寄港する目的には水の補給もあったが、船乗りたちを喜ばせたのは、神戸の水が「赤道を越えても腐らないおいしい水」であったことだとされる。

 山陽新幹線の新神戸駅に降り立った人はみな、気付くと思うが、駅の北口はいきなり木々に覆われた急峻な山となっており、もう六甲山がホームに迫っている。駅から布引の滝を経て、再度公園に至る登山道では、イノシシのような野生動物にもよく遭遇する。

 新神戸駅から市街の中心部・三宮までは歩いても15〜20分ほど。つまり、人口約150万人の大都市である神戸の市街地と、標高931メートルの六甲山が非常に近く、六甲山を水源とする川は急流を一気に下って、大阪湾に注ぐ。神戸に寄港する船乗りたちは、布引の滝を形成する生田川の良質な水を「神戸ウォーター」と呼んで愛飲したという。

「神戸ウォーター」と称えられた、生田川の「布引の滝」(出所:神戸観光局公式Webサイト)

 神戸市水道局のWebサイトでは「水の中に含まれる有機物の量が多いほど、微生物が増えて腐りやすい要因となります。布引渓流は、急峻な地形を水が流れていくために、有機物が含まれにくい特徴があります。また、急峻ゆえに溶け込むミネラルの量が少なくなり、まろやかで飲み心地の良いおいしい軟水に仕上がります」と、神戸の水がおいしいとされる理由を解説している。

 また、神戸市東部から西宮市にかけては「灘五郷」と呼ばれる有数の日本酒産地で「宮水」と呼ばれる酒造りに適した地下水が豊富だ。さらに、六甲山系の東端にあたる西宮市北部で、1889年に英国人のウィルキンソンが天然の炭酸鉱泉を発見。食卓用・医療用として非常に優れた性質を持っていたことから、翌年に「仁王印ウォーター」として発売した。現在「ウィルキンソン」として販売されている炭酸水のルーツである。83年にアサヒビールが商標権を獲得し、今ではアサヒ飲料の主力ブランドとなっている。

神戸から西宮の市街は、名水・宮水が取れ「灘五郷」と呼ばれる。有数の日本酒産地としても有名(撮影:筆者))

 このように、神戸の水、六甲山系の水は「うまい」「有益だ」というイメージが元々あった。それが「六甲のおいしい水」がすんなりと世間に受け入れられた要因としてあったのだ。

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