「六甲のおいしい水」はどこへ? “水買いブーム”の先駆けを、店舗で見なくなった理由長浜淳之介のトレンドアンテナ(3/5 ページ)

» 2023年10月24日 08時55分 公開
[長浜淳之介ITmedia]

なぜ「売れる」のに手放したのか

 ではなぜ、こうした市場が追い風の中でもハウス食品は「六甲のおいしい水」を手放したのか。

 ウイスキーやビールが母体で、烏龍茶などでも実績があるサントリーフーズ。「お〜いお茶」の伊藤園。「ポカリスエット」の大塚製薬を核とする大塚グループ。世界ブランドである「コカ・コーラ」を持つ日本コカ・コーラ。いずれも、ソフトドリンクでは烏龍茶、緑茶、スポーツドリンク、コーラのパイオニアで、強敵ぞろいだ。

 カレーはもちろん、食品部門で多大な実績を誇るハウス食品でも、水分補給のための清涼飲料水でヒット商品が「六甲のおいしい水」のみといった状況は、かなり厳しかったのではないだろうか。ハウス食品では武田食品から引き継いだ「C1000」、2004年に発売した機能性飲料の「ウコンの力」もヒットしていたが、ジャンルが異なる感がある。

 ハウス食品の09年3月期の決算短信には、「六甲のおいしい水」が価格競争に巻き込まれて厳しい状況に置かれているとの記述がある。10年3月期も引き続き苦戦を強いられていた。

 しかも、08年6月17日、公正取引委員会より「六甲のおいしい水」の2リットルの製品ラベル表記に関し、景品表示法違反(優良誤認)により排除命令を受けた。

 「六甲のおいしい水」は元々神戸市灘区にある灘採水場の水を、500ミリリットル、1.5リットル、2リットルと3種類のボトルにて販売してきたが、そのうちの2リットルの製品を05年に新設した六甲工場で採水した水に切り替えた。

 「六甲のおいしい水」のラベルには、「“花崗岩に磨かれたおいしい水”。六甲山系は花崗岩質で、そこに降った雨は、地中深くしみ込み、幾層にも分かれた地質の割れ目を通っていく間に花崗岩内のミネラル分を溶かし込み、長い時を経て、口当たりの良い、自然なまろやかさが生きている良質の水になります」といった説明文が表記されていた。

 花崗岩の地層はカルシウムを多く含むが、2リットル製品には他の製品の4分の1程度しか、カルシウムが含まれていなかった。

 ハウス食品では、六甲山地の花崗岩層に接触した雨水が地下水流となり、六甲工場周辺地下まで流れ込んでいるという専門家の見解を踏まえたものだと、科学的根拠も示したが、公正取引委員会からは合理的根拠を示すものでないと判断された。

 対象となったのは、賞味期限06年11月23日〜10年1月17日の製品。なお、ハウス食品では既に08年1月18日製造分より、指摘を受けたラベルを外して販売していた。

 このようなトラブルもあって、「アサヒスーパードライ」の爆発的ヒットで、1998年にビール市場首位に立ったアサヒグループの勢いに「六甲のおいしい水」の未来を託そうと、ハウス食品が考えても不思議はない。

 しかもアサヒ飲料は「三ツ矢サイダー」「バヤリースオレンジ」「ウィルキンソン」といったロングセラーの商品群を持ち、日本の清涼飲料水の草分けともいえる老舗企業である。

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