「六甲のおいしい水」はどこへ? “水買いブーム”の先駆けを、店舗で見なくなった理由長浜淳之介のトレンドアンテナ(5/5 ページ)

» 2023年10月24日 08時55分 公開
[長浜淳之介ITmedia]
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健康志向も追い風に エコ商品が好調

 アサヒ飲料の杉本真崇氏(マーケティング二部 ウォーターグループ)は、六甲のおいしい水がヒットした背景を次のように話す。

アサヒ飲料・杉本氏

 「1970年代は“飽食の時代”といわれ始めた時代です。食事のニーズが量から質に転換していく中で、減塩・低カロリーの商品が登場してきました。81年には烏龍茶飲料がヒットして、健康にまつわる商品が求められてきた流れにも乗りました」

 「カロリーから質へ」といった食トレンドの変化と健康志向は、現在にも通じるニーズだろう。

 また、当時の建設省(現・国土交通省)がこの頃の公害問題の悪化により、1958年から行ってきた一級河川の水質検査を、71年からは年単位でとりまとめて発表し始めている。どこの水の品質が高いのか、国民が意識するようになってきた。どこの水でも同じなのではなく、六甲なり、富士山なり、その場所で採水された水だからこそ、買って飲みたいというニーズが喚起された。

 水道水を殺菌するための塩素のにおいを気にして、浄水器、整水器を取り付ける人が増えたのもこの頃だ。

 2011年に東日本大震災が起こり、断水に備える防災意識の高まりによって、備蓄用のミネラルウオーターの箱買いが増えたことも、市場の活性化に寄与した。

 直近では、21年に発売したペットボトルのラベルが小さく剥(は)がしやすい「シンプルecoラベル」の商品が好調だという。最近は、ラベルを剥がしていないとペットボトルを回収しない自治体もあり、エコ意識の浸透とともに売れ筋となってきた。

 「アサヒおいしい水」は、地下深層に染み込んだ天然水、「深井戸水」を外気に触れないように汲み上げてそのままボトルに詰めている。「深井戸水」は地表から受ける影響がほとんどなく、水質、水量、水温が安定しており、外界から隔離されているので安全性が高いといわれる。

 「今夏は記録的に暑かったこともあり『おいしい水』は2ケタ成長を見せています」(杉本氏)。

 今年に入って「アサヒおいしい水」は、ミネラルウオーター市場の成長と猛暑の効果で、前年比111%と好調な売れ行きという。

好調だという「シンプルecoラベル」商品(提供:アサヒ飲料)
ラベルレスの商品も登場した(同前)

 かつてミネラルウオーターの草分けだった「六甲のおいしい水」。現在は「アサヒおいしい水 天然水 六甲」と、ブランドが変わり、製造販売もハウス食品からアサヒ飲料に変わったとはいえ、変わらぬ成長性を有しているようだ。

著者プロフィール

長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。著書に『なぜ駅弁がスーパーで売れるのか?』(交通新聞社新書)など。


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