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「初任給50万円」のウラ側 みなし残業代を引いたらいくらになるのか?働き方の「今」を知る(3/5 ページ)

» 2023年10月30日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]

問題がない点

「月80時間分の固定残業」といっても、「長時間残業を強制される」わけではない

 固定残業時間の設定が月80時間だからといって「毎月80時間の残業を強制される」というわけではない。

 あくまで設定上の上限値であるから、あらかじめ「80時間分の残業がある前提で、その分をみなしで払う」という意味でしかなく、早く仕事が終われば早く帰れることはもちろん可能だ。仮に残業ゼロで仕事を終えられれば、80時間分の残業代は丸もうけということになる。効率的に仕事を進められる人にとってはメリットのある条件といえよう。

 実際、サイバーエージェント社が公表している平均残業時間は「月約31時間」だ。実情がこの通りであれば「月45時間以内」という法律の範囲内に収まっており合法であるし、社員にとっても約50時間分の残業代を余分にもらえているわけであるから、何も問題はないはずだ。

疑義がある点

固定残業時間として月45時間を超える設定は、仮に裁判で訴えられた場合、「無効」とされる可能性が高い

画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ

 法の精神に照らして考えれば、月45時間を超える残業はあくまで「例外」の扱いだ。特別条項付き36協定を締結することで可能とはなるものの、あくまで「通常予見できない特別な事情が発生した場合に限って臨時的に許容」される特例である。

 従って、固定残業代を「月80時間」で設定しているということは「通年で45時間を超える残業が発生する」とみなしているわけで、仮に裁判になれば無効とされる可能性が高い。その場合、固定残業代は基礎賃金として扱われることになる。

 とはいえ、サイバーエージェント社の場合「それだけの報酬を得るためには高いパフォーマンスを発揮しなければならない」とハードワークを覚悟した人物だけが入社しているはずだ。

 労務側でも、いちいち細かく労働時間を管理して残業代を精算するより、一括でドカンと払って思う存分仕事をしてもらったほうが都合がよい面もあるだろう。同社にとっては、新卒から実質的な裁量労働制を実現できる、お互いにWin-Winな取り組みだといえよう。

 このように固定残業制は、あらかじめ一定の残業代が基本給に上乗せされるため、一見高額の報酬を用意しているように見え、求人の際に見栄えがよくなるメリットがある。さらに会社側は規定時間までは残業代の計算が不要になるし、労働者側は残業をしてもしなくても同じ金額が保障されるため、極力効率的に仕事を進めて早く帰ろうというモチベーションにつながる効果もあるといえるだろう。

 メリットが多いゆえに多くの企業で採り入れられている固定残業制だが、一方で仕組みを誤解していたり、都合よく「いい所取り」をしようとしたりする会社も多く、トラブルにつながりがちでもある。読者諸氏も、就職や転職の際には注意いただきたい。また、自社で固定残業制の求人を出している企業の担当者は、問題のある表記をしていないか、一度確認をしてみてほしい。

 注意点は次の通りだ。

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