確かに各社とも初任給額は高額だが、各社の募集要項をよく見てみれば「カサ上げ」「水増し」のカラクリに気付くことだろう。
実は今般採り上げた各社の高額初任給は、多くの人がイメージする「月額基本給額(残業代・賞与別)」ではない。「固定残業制(※1)」によって、あらかじめ規定時間分の残業代が含まれたうえでの総額表記であったり、「年俸制(※2)」の総額を12分割した1カ月分の金額であったりする。
※1:実際の残業時間にかかわらず、あらかじめ一定時間分の時間外労働に対して定額の残業代を支払う制度。「◯時間分残業したとみなして支払う残業代」であることから「みなし残業代」とも呼ばれる。
※2:1年単位で支払われる報酬。12分割で支払われる場合、当然ボーナスという概念は存在しないか、月額報酬は賞与込みの金額になる。
その前提で、冒頭各社の高く見える初任給額を分解していこう。高額初任給に含まれていた固定残業代や深夜割増手当などを抜いていくと、基本給額は一般的な水準に落ち着くイメージになることがお分かりいただけるはずだ。
40万円、50万円といった額面金額だけに着目してしまうと、数字のインパクトが大きいあまり一瞬思考停止に陥りそうになるが、このように落ち着いて情報を精査してみると、「月額基本給が25万円前後なら、規模の大きい上場ベンチャー企業であれば一般的な水準かも」と捉えられるようになるはずだ。
一方で労働法制に詳しい読者諸氏であれば、一部企業が設定している「固定残業月80時間分」という数字に引っかかりをおぼえるかもしれない。
労働基準法の改正によって、大企業は2019年4月、中小企業は20年4月より、残業時間には上限規制がかけられている。基本は「1日8時間、週40時間」まで。労使間で協定(36協定)を結んだとしても、上限は原則として「月45時間・年間360時間まで」であり、なおかつ「月45時間を超えることができるのは年間6カ月まで」と決められている。さらに特別な事情があって労使が合意する場合でも、「複数月の残業時間平均は80時間以内」「年720時間以内」という基準を超えることはできない決まりなのだ。
この規制に則って考えると、固定残業として設定できる残業時間はせいぜい「月30時間」(年間上限360時間÷12)であり、多く見積もったとしても「月45時間」(単月上限時間)が上限であろう。それ以上の設定となると、「違法レベルの残業が常態化している」と捉えられても文句は言えない。
そのような中で「固定残業80時間」との設定は、当該基準を明らかに上回っているため、「月々の残業が80時間超えだと過労死ラインでは?」といった懸念も多く寄せられた。果たして、この設定は合法なのだろうか。「問題ない点」と「疑義がある点」に分けて解説しよう。
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