実際にどのようなリノベーションがなされているのでしょうか。物件を視察しました。場所は多摩ニュータウンの一角にある「百草(もぐさ)団地」内の一室です。広さは55平方メートルで、間取りは2LDK。5階建ての4階に位置します。
間取りはリノベーション以前と同じですが、一部の壁を抜いてリビングとダイニングキッチンをつなぎ空間を広くしたり、ライトを変えたり、天井から棚をつるして小天井をつくったりと随所に工夫が見られます。過去の調査でリノベーションした団地に住む人の75%が40代以下と分かったこともあり、20〜40代に狙いを定めた内容になっているそうです。
特にこだわっているのが、和室のデザイン。畳と襖(ふすま)に着目して、どうすれば若い人に支持されるものになるか考え、工夫したといいます。畳をフローリングにすればコストがかかりますし、遮音性も落ちます。そこで、オリジナルの畳をつくろうと、URと共同で「麻畳」を開発しました。
家具を置いて洋室のようにも使える麻畳は、触れ心地が柔らかく、丈夫な点がメリットです。URが求める基準はとても厳しく、それをクリアした麻畳の開発は大変だったといいます。その苦労もあってか、麻畳はリノベーションした物件のシンボルのようになっており、空間全体が無印らしいデザインに仕上がっていました。
ちなみにこの物件は、家賃が6万9600円、共益費が4150円で合計7万3750円です。百草団地の立地は、京王線・高幡不動駅から徒歩20〜25分程度。筆者が調べたところ、同エリア・条件の2LDKでは7万8000〜9万円が賃貸物件の相場でした。団地暮らしの魅力は、やはりこの家賃の安さにあることを実感しました。魅かれる人が多いのもよく分かります。
百草団地の物件を実際に見て、団地と無印ブランドの親和性がとても高いことに気付きました。団地は華美ではない一方、素朴な暮らしの基本がそろっています。空間はいたってシンプルで、余分なものがありません。だからこそ、リノベーションで自在に空間を変えていくことが可能なのです。
特に、同プロジェクトの物件に入居している人たちの嗜好(しこう)はいたってシンプル。「マンションだとつまらない」「こだわりすぎているのが嫌」という価値観の人たちが入居しています。彼・彼女らの多くはモノ自体を持つことを嫌い、できるだけシンプルな暮らしを心掛けようとしています。古くなった住まいを長く丁寧に住みつないでいくことが、新しい日本の暮らしのスタンダードだとも考えているかもしれません。
先ほど紹介した三浦展さんは、無印良品・ユニクロのようにシンプルなアイテムを購入し、お金があっても質素に暮らすことをカッコ良いと考える人たちを「シンプル族」と名付けました。著書では「シンプルな暮らしの魅力に気づいてしまったシンプル族は、たとえ今後景気が回復しても、もう浪費的な生活には戻らないだろう」(『シンプル族の反乱』09年、KKベストセラーズ)と書いています。
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