「人材版伊藤レポート2.0」では、企業文化も人的資本経営も重要な要素として位置付けられている。持続的な企業価値の向上につながる企業文化は、人材戦略の実行を通じて醸成されるものと述べられている。また、人材戦略策定の段階から目指す企業文化を見据えることが重要とも記されている。
そもそも企業文化とは何か。筆者は「社員の意識や行動スタイルの暗黙的なパターンや社内ルール」と定義している。つまり、公式であれ非公式であれ、社員の思考や言動に影響を与え、時間をかけて醸成される文化が企業文化である。
社員の思考や言動に影響を与える要素は次のようなものだ。
これらは、それぞれの企業の歴史的背景などもあって形成されるものであり、良しあしを決める必要はない。しかし、これからの未来に向けて、掲げている理念・パーパスを実現するための企業文化をどう描くか、それを醸成するために経営者が発する言動や組織体制、仕事の進め方、人事評価、各種制度は人材にどのような影響を与えるべきかを議論する必要はある。つまり、これからの企業文化を経営者が意図的にデザインしていくことが必要ということである。
これまで述べたように、人的資本経営は、単に採用の母集団を増やすために広告費を莫大に使うことや、研修をむやみやたらに増やすことではない。それで生産性が落ちてしまっては元も子もない。企業価値の向上のために人的資本へ投資し、リターンを得て、自己資本(自社が持つ人材の価値)を高めていくことが本質である。
そのためには、人事部門に求める機能や役割も転換しなければならない。高度な専門知識を駆使して緻密な人事インフラを整備することや、労務管理をスムーズにこなすオペレーションも必要だが、今後は経営戦略を正しく理解し、人的資本経営を実現する戦略の立案、推進ができる人事機能が求められる。これは、目の前の課題を解決するのではなく、持続的に企業価値を向上させるための「未来志向のリーダーシップ」を発揮して、経営に寄与する機能・役割だ。
経営参謀でもあり、人的資本への投資判断ができ、経営環境の変化に応じて既存の人事基盤を柔軟にブラッシュアップできる専門性と機動力を兼ね備え、未来志向のリーダーシップを発揮できる──経営者は、そんな人事部門を構築してくことに取り組んでほしい。
古田勝久(株式会社タナベコンサルティング エグゼクティブパートナー)
自動車部品メーカー、食品メーカーの人事部門にて採用・人材育成・人事労務業務を経て、タナベコンサルティングへ入社。
現場で培ったノウハウをもとに、戦略的な人事・組織の実現に向けて経営的視点からアプローチし、大企業・中堅企業の成長を数多く支援している。
TCGは、1957年(昭和32年)に創業し、創業60年を超える日本の経営コンサルティングのパイオニア。「企業を愛し、企業とともに歩み、企業繁栄に奉仕する」という経営理念のもと、グループで約660人のプロフェッショナル人材を擁し、「経営者・リーダーのパートナー」として大企業から中堅企業まで17,000社以上の支援実績を持つ。
経営コンサルティング領域としては、戦略策定支援(上流工程)から、デジタル技術も駆使した現場における実装・オペレーション支援(中流〜下流工程)まで、企業経営を一気通貫で支援できる経営コンサルティング・バリューチェーンを全国地域密着で構築している。
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