「音楽業界のIT部門」を自称し、国内ではいち早い音楽配信事業や、デジタルによるアーティスト支援を展開してきたレコチョク。かつて「着うた」で有名だった同社が今、生成AIの積極的な活用を進めている。
第1回の記事【「想像を超えたレベル」 レコチョク責任者がChatGPTに驚愕した理由】では、音楽業界が生成AIでどのように変わる可能性があるのかを、レコチョク執行役員で、次世代ビジネス推進部の部長も兼任する松嶋陽太さんと、同エンジニアリングマネージャーの横田直也さんに聞いた。
2回目の今回の記事では、生成AIをクリエイティブ分野で活用する際の課題に迫る。
――生成AIで既に作詞も作曲もある程度できてしまいます。この現状をどのように見ていますか。
松嶋: 例えばChatGPTで歌詞を書くことや作曲することも可能で、法律的にもホワイトなんですが、そのツールが何を学習しているかが明確ではないため、商業でそのまま使うことは倫理的な部分で懸念があると思います。音楽ビジネスとして使う以上は、ここがクリアである必要があると思います。政府で生成AIに関する対応策やルール作りの検討が進められているので、その動向も見ながら慎重に対応していきたいと考えています。
――文化庁が6月に出した生成AIに関するガイドラインでは、出力したものが既存の作品に似ているかどうかの依拠性が論点となっています。
松嶋: そうなんですよね。アウトプットしたものが類似しているかどうかを見ているだけなので、日本ではそこはセーフではあるのですが、国によって判断も分かれるところです。国際的には、G7広島サミットで話し合われた部分がここ2〜3年の間にベースができてくると期待しています。
その間も生成AIをクリエイティブ分野に活用する研究開発は続けますが、実際のサービスとして出すのは音楽業界の一員として現段階では厳しいと思っています。
――恐らく既に一部のアーティストは、作詞作曲の業務効率化のために生成AIの活用を始めていると思います。特に作曲では実際どこまでできるようになっているのですか。
松嶋: 米Meta社が「Audio Craft」というツールを出していて、このツールによってテキストから楽曲を作り出せます。ただ、どのサービスでも学習している元のモデルが明確にならない限りは、制作物をサービスとして展開することは現時点ではリスクがあると思います。
──仮に学習しているモデルが明確になった場合は、どんなサービスが考えられますか。
松嶋: 可能性として考えられるのは、インディーズアーティストへのクリエイティブ支援ですね。当社の子会社の「エッグス」では、インディーズアーティストの活動支援事業を展開しています。例えばそこに登録するアーティストの作曲したデータをAIに学習させて、楽曲のみならず、希望に応じてジャケット写真やショート動画などのクリエイティブ制作の支援ができないか考えています。
――社内の業務効率化から音楽業界支援につなげていく戦略だと思うのですが、レコチョクの全社員がそのイメージを持てるようにならないと良くなっていかないですよね。
横田: 会社として大きく前進しないといけないと思っています。開発担当も本当はクリエイティビティなことに時間を費やしたいのにもかかわらず、事務的なことに時間が5〜6割ほど充てられているのが実情だと思います。ここをどんどん減らして、もっとクリエイティブな活動に専念できる体制にしたいですね。
エンジニアでいうと、ビジネスロジックを書くメインのプログラミングをしていかないと、本当に同じようなコードを量産するようなエンジニアがどんどん増えていくだけになってしまいます。これらの業務はAIに任せ、エンジニアは新しい技術への挑戦やサービス改善につながるクリエイティブなプログラミングをしていく。そうしないと人材も育っていかないと考えています。
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