危機をチャンスに変える ホテルニューアワジの発想力(1/6 ページ)

» 2023年12月04日 09時28分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 思わず口ずさんでしまうテーマソング。絶景の温泉や「御食国(みけつくに)」のグルメが映し出されるCMでおなじみといえばホテルニューアワジ(兵庫県洲本市)だ。会長の木下紘一さん(80)は結婚を機に25歳で畑違いのホテル業界へ飛び込み、淡路島の観光振興に情熱を注いできた。経営破綻した宿を買収して次々に再生し、グループの宿泊施設は17拠点に拡大。旅館が持つ「和」の要素を巧みに取り入れ、時代に応えたホテルが多くの客を魅了している。

会社勤め見切り旅館業へ

 入社は現在同社の女将(おかみ)を務める圭子さん(78)との結婚がきっかけだ。ホテルニューアワジの前身「水月荘」を昭和28年に創業したのが圭子さんの父親だった。

ホテルニューアワジの施設内でポーズを取る木下紘一さん=兵庫県洲本市(甘利慈撮影)

 就職難の時代で上京志向から東京の製薬会社に入り、営業マンとして働いていたが、大学時代から交際を続けていた圭子さんの父親にこう迫られた。

「娘との将来をはっきりさせてほしい。結婚するなら、会社を辞めて家業を手伝ってくれないか」

 観光都市・京都の生まれだったが「観光業に縁もなく、興味はなかった」。ただ東京での暮らしを続けたいと願うほど、会社勤めに魅力を感じていなかった。「今の時代と違って週に6日働いても給料は安い。営業で終日外回りすれば、煤煙(ばいえん)で鼻が黒くなるような時代だった」。圭子さんが家業の旅館に深い愛情を注いでいることにも心を動かされた。

 約2年間の会社員生活に見切りをつけ43年に入社。水月荘は40年に増築されて現在のホテルニューアワジに改称されており、接客から電話応対、経理や銀行との折衝、故障したボイラーの修理までなんでもした。

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