それでは「黒革の手帖」を持つ営業マンを雇用することは企業にとって悪なのでしょうか?
私はそうは思いません。利己的な考え方を持ち、会社を道具として利用するような人材には注意すべきですが、会社のカルチャーやコアバリューに真摯(しんし)に向き合う「百戦錬磨」の営業の存在は尊敬に値し、企業や経営者にとって彼らを採用できることは誉れであるとも言えるでしょう。
彼らが持つ特長として独自の顧客リストだけに限定するのは、組織として損をする可能性が潜んでいます。着目すべきは、顧客との関係性を保つための業務プロセスやトークスキルなど、顧客と信頼関係を築くための方法です。
例えば、商談中に必ず予算や検討時期を確認する、商談を実施した顧客に対して他の営業は2営業日かかる中で当日中に必ずコンタクトを取る、コンタクト方法を顧客に合わせて変更し、30代前半はメールで、30代後半以上は電話や対面でのコミュニケーションで交渉を進める――など、彼らなりに実行している、成約率と相関する要素が見つかるはずです。
このようにトップ営業マンのノウハウをデータ化し、以前ご紹介した方法で整備した業務プロセスや、プロセスごとに営業が取るべきアクションや押さえるべき情報など組織全体で設ける基準である「営業の型」の改善に活用できれば、持続可能な売り上げにつなげることができるでしょう。
人材の流出はどのような組織でも発生します。それを単なる損失とするか、進化のための糧とするかは、皆さんの組織の「データ活用の仕組み」次第で変わります。
(1)組織全体で統一の型に落とし込み、営業活動や成果を時系列で定量的に観測する、(2)成果が出るトップセールスに共通するスキルや考え方、顧客との合意事項やコミュニケーションの方法を特定する、(3)特定した方法をもとに営業の型を継続的にアップデートする――これらのPDCAを回せば、特定の人材が退職しても、近いスキルや経験を持ったメンバーを育成することが可能となります。
実現には一定のデータ量が必要になるため、効果を実感するまでに時間はかかると思います。しかし、情報が多ければ多いほど組織全体の営業力を向上させることができ、持続可能な売り上げの創出につながります。いつ取り組みを始めるかで10年後には大きな差になるはずです。
中央大学法学部卒業後、2社を経てGoogle Japan、freeeで営業部門の統括及び責任者として事業成長を牽引。2017年にMagic Momentを立ち上げ、2018年9月より経営を本格化。累計資金調達額20億円(DCMベンチャーズ、DNX Ventures、三井物産、ほか)。LINEやUSEN、凸版印刷等、多くのエンタープライズ企業の営業変革を人・テクノロジー・オペレーションの全方向から支援。2021年にローンチした営業AI行動システム Magic Moment Playbook は、SMBの大量解約の時期を乗り越え、現在はエンタープライズ企業の生産性向上、LTV向上を非連続に実現している。
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