新時代セールスの教科書

「俺の顧客リスト」を持つ営業マンを採用――これって正解? 米国から学ぶ「脱・属人化」令和でも「黒革の手帖」は通用するか(2/3 ページ)

» 2023年12月04日 07時30分 公開

属人的な日本企業、営業力はどう強化する?

 では今後日本企業が、営業組織全体として継続的に営業力を強化するためにはどのようなことが必要となるのでしょうか?

 1つは「組織の再現性・拡張性向上」、そして2つ目はそれを下支えする「データ基盤とデータを収集・活用する仕組みづくり」だと考えています。まずは「データ基盤や仕組み」について、テクノロジーの利用状況から考えてみましょう。

 日本企業の営業部門において、CRM(Customer Relationship Management、顧客関係管理システム)やSFA(Sales Force Automation、営業支援システム)などのツールの導入は進んでいますが、利用シーンは限定的で、顧客管理を行うためのIT投資に止まっている実態があります。

 多くの国内企業では、本来は「成果を上げる」目的にSFAやCRMツールを導入するにもかかわらず、実際には「管理」のためにのみ活用されているという実態があるように考えています。

 この背景には、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスなど部門ごとで異なるツールの導入が進み、顧客に関するデータを一元管理できていない状況が関係します。皆さんも、せっかく時間をかけてツールの設定を行っても、いざデータを使おうとふたを開けてみたらツールごとのデータ形式や内容がバラバラでデータが時系列につながらない、表記揺れや抜け漏れがあり分析ができない、追加投資やオペレーションが必要になる――といった課題に直面した経験があるのではないでしょうか。

黒革の手帖 ツール・データ活用における課題

 先行してこのデータ統合の課題が顕在化した米国では、データの連携やツール内に蓄積したデータを、営業担当のアクションへとつなげるソリューションを提供するサービスが台頭してきました。例えば、口頭合意、デモの予約、Webサイトへの訪問、アップグレードのお試しなど、連続的につながる顧客の動きを一連のデータとして蓄積し、自社が取るべきアクションを導き出せるようになっています。

 このようなソリューションは日本ではまだ一般化していません。しかし、適切にデータを蓄積し、活用する仕組みを作り、適切なデータ基盤を活用することができれば、1つ目に挙げた「組織での再現性・拡張性」も担保することができるのです。

 「データ基盤や仕組み」を手順を踏んで整え、持続可能な組織を作ることで、「黒革の手帖」を持つ営業マンからもたらされる目先の売り上げに依存せず、営業組織にとって本質的に重要である「長期的な収益改善」や「顧客との信頼関係の構築」の達成へ近付くことが見込めます。また、組織の力を利用して営業マンの黒革の手帖を太らすことに貢献してしまう危険性を避けることにもつながります。

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