マーケティング・シンカ論

東急歌舞伎町タワー、開業9カ月でどんなことが見えてきた?2023年、話題になった「あれ」どうなった?(3/4 ページ)

» 2023年12月21日 08時00分 公開
[熊谷紗希ITmedia]

街のゲームセンターやクラブから人が消える?

 地域の人々の懸念はもっともだ。東急歌舞伎町タワー内には、ゲームセンター大手のバンダイナムコアミューズメントが運営する「namco TOKYO(ナムコトーキョー)」が店を構え、日本各地の料理を一挙に楽しめる横丁がほぼ24時間営業し、さまざまなアーティストやDJが盛り上げるクラブも朝まで営業している。歌舞伎町の楽しい要素を詰め込んだ複合施設に「客が取られる!」と思うのも無理はない。

 「確かに、街の人の懸念はありました」とのことだが、意外とカニバリズムは起こらなかったという。

 「ナムコさんの大きいゲームセンターがあるため、街のゲームセンターに人が行かなくなるのではとの懸念もありましたが、逆に賑わうようになったと仰っていただけました。飲食店やクラブも例外ではありません」

 この現象は、東急歌舞伎町タワーによって「目的を持って歌舞伎町を訪れる人」が増えたことが背景にあるのではないか。今までの歌舞伎町は「単純に騒ぎたい」「お酒を飲みたい」「適当に小腹を満たしたい」というように、なんとなく足を運ぶ場所という側面が強かったのかもしれない。東急歌舞伎町タワーが、歌舞伎町に慣れ親しんだ層をターゲットにしていたら、客の取り合いに発展する可能性もあっただろう。

 東急歌舞伎町タワーに目的を持って来館し、その後歌舞伎町を楽しむという流れが出来上がりつつあるため、カニバリを起こさずに街全体の発展につながっているのかもしれない。

東急歌舞伎町タワーの戦略である"目的来館"によって、カニバリズムは起こっていないようだ(画像:ゲッティイメージズより)

 冒頭でテナント構成を「カオス」と表現したが、コンセプト「好きを極める」を横串として通すことで、戦略性が見えてくる。戦略が功を奏したのか、開業1カ月の5月には来館者数100万人を突破。「商業施設に人が集まらない」と言われ続けている中で、飛ぶ鳥を落とす勢いだ。

 しかし、その客が定着するかどうかは、今後にかかっている。木村氏は「来館者数は公表していませんが、テナントさんによって多少の違いはあるものの、予想よりもはるかに多い方に来館いただいているのは事実です。ただ、来館者数100万人と大々的に発表したときから、落ち着いてきているのもまた事実です」と現状を振り返る。

 観光拠点として歌舞伎町を盛り上げ続けるために、どのような仕掛けを用意しているのか?

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