攻める総務

「実は総務マター」でもある人的資本経営 人事任せにせず、やるべきこと「総務」から会社を変える(2/2 ページ)

» 2023年12月22日 07時00分 公開
[豊田健一ITmedia]
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適切な環境でパフォーマンスを上げる

 しかし、である。いくら人材の伸びしろを最大化させたとしても、適切な環境を提供しなければ成果にはつながりづらい。人事部門がピカピカに磨いた人材を、総務部門が適切な環境で働けるようにすることが重要だ。人事と総務の連携によってはじめて、人的資本経営は実効性のあるものとして実践される。

 となると問題となるのは、総務が担当する「働く場づくり」を、どのように進めていくかだ。「何を軸として場を作るのか」「そもそも働く場の意味とは何か」を理解することが極めて重要になる。あくまでも目的は成果の創出であり、コロナ禍を通じてあらためて認識された「チーム活動の重要性」を念頭に置きながら、チームの成果をベースとして働く場を考えるべきなのである。

 コロナ禍以降に注目されたABW(アクティビティ・ベースド・ワークプレース)は個々人が働く場を選ぶものだが、今後はTBW(チーム・ベースド・ワークプレース)という考え方が重要となる。各チームにどのような成果が求められているのかを総務部門がしっかりと把握し、その成果を最も高められる働き場を、チームごとに作っていくのだ。

 コロナ禍をきっかけに起きた、働く場に関する変化といえば、これまでは全ての従業員がフリーアドレスで働いたり、あるいは、全社共有のABWがあったりする形が大変だった。このような職務環境が作られていったのは、イノベーション創出のためだ。しかし、全ての部門にイノベーションが求められているのだろうか? そもそも、多くの組織はそれぞれ求められることを最大化させるために分化していったものだ。

 求められる成果の違いを把握せず、全員一律に働く場を統一させる必要は、果たしてあるのだろうか? こう考えるとき、TBWが問題解決の手段になるだろう。

photo (提供:ゲッティイメージズ)

部門最適オフィス

 筆者が編集長を務めていた『月刊総務』の定番人気コーナー「次世代オフィスツアー」でも毎回コメントしているが、企業は部門最適オフィスこそ取り入れるべきである。

 イノベーションを求められる部門は、他部門とのコミュニケーションの円滑化のために、フリーアドレス。その一方で、同じ領域のナレッジの組み合わせにより、業務の効率化を図っていく部門はグループアドレスとし、同じような場所にいつつも、座るところは自由に選べる形式とする。場合によっては、固定席を取り入れる。

 さらに、間接部門などの現場従業員から問い合わせを受ける部門やサポートをする部門は、ひとかたまり、あるいは、一定の場所にいてもらったほうが、問い合わせをする社員からすれば効率が良い。間接部門もフリーアドレスにしてしまうと、問い合わせしたくても、いちいち探さなくてはならない。位置情報により見つける仕組みを整えるという選択肢もあるが、ワンアクション入る手間が生じる。

 部門ごとに、成果や求められる生産性は異なる。この点の理解なくして、適切な環境は作り出せない。

 となると、ここで人事部門と総務部門との連携が必要になる。従業員が求められている部門ごとの成果は、人事評価に直結している。これを把握している人事部門が、その情報を総務部門と共有し、総務部門が、成果に直結する働く場を作っていく。

 そのような情報を得ずして、総務部門が他社をまねたようなオフィスをつくていては、本当に自社のためのオフィスとはならない。総務は人事と連携し、人的資本経営を働く場にも適用していく必要がある。

著者プロフィール・豊田健一(とよだけんいち)

株式会社月刊総務 代表取締役社長/戦略総務研究所 所長/(一社)FOSC 代表理事/(一社)ワークDX推進機構 理事/ワークフロー総研 フェロー

早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)FOSC代表理事、(一社)ワークDX推進機構の理事、ワークフロー総研フェローとして、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。

著書に、『リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター、以下同)『マンガでやさしくわかる総務の仕事』『経営を強くする戦略総務』


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