カラオケにおいて時代とともに変わってきたものが、もう一つあります。それは、歌われる曲における年齢構成比です。博報堂生活総合研究所の調査によると、10代から60代までの全ての年齢層で共通して歌われる曲の数は、この12年で増加しているのです(参照:日経クロストレンド「11年間のカラオケ歌唱データで判明! 『消齢化』の実態」)。
インターネットの普及やSNSの隆盛により、知らなかったことや異なる世代の流行も、興味を持ったらすぐに調べられたり、さほど興味を持たずとも偶発的に出会ったりするようになりました。こうした時代の変化に先ほど述べた音楽の楽しみ方の変化も相まって、年齢が上がっても、若い世代が好む曲を自由に楽しめるようになっています。
例えば、別れた恋人たちの気持ちを女性目線で歌った切ないロックバラードや、ヒットしたアニメの主題歌など、10〜20代を中心に人気を博した曲が、カラオケでは60代にも多く歌われているという結果が出ています。
また、最近では昭和歌謡を好んで聞く若年層が増えているという話もよく聞きます。同調査からは、過去と比較すると近年のほうが若い世代が「昔の曲」を歌っていることも分かっています。
最近のヒット曲を知らないおじさんと、おじさんの十八番を知らない若者がカラオケでお互いの好きな曲を一緒に楽しむことはできない……なんて構図は、もう古いのかもしれません。
最近では、カラオケボックスでの過ごし方はさらに変化し、歌うという目的以外で利用する人も増えています。そこで行われているのは、いわゆる「推し活」。
カラオケの大画面と迫力のある音響設備を利用し、推しアーティストのライブDVDやミュージックビデオを再生して、推し活仲間と一緒にその映像を楽しむのです。映像を見ながら、どのポイントがどういいかを語り合ったり、そこから発展して推しのニュースや近況について熱く語り合ったりすることで、参加者同士の交流や推しへの愛を深めていくそうです。
カラオケボックスの運営側も推し活利用を促進しており、巨大なプロジェクターを設置した部屋、推し活に特化したプランやドリンクメニューなど、さまざまなサービスを提供しています。
推し活の「歌わずに見るだけの楽しみ方」を、先述したヒットするサービスと七つの大罪との関係性を当てはめると、カラオケはついに「怠惰」の欲求までをも満たすほどに進化していると言えるのかもしれません。
世の中のデジタル化が加速し、それまで課題とされてきたことの多くは解決されました。これからヒットするサービスを生み出していくには、マイナスをゼロにするのではなく、ゼロもしくはプラスの状態にさらに価値を付与することが求められます。
そうは言っても、人間の欲求は根源的には大きく変わるものではありません。むしろ、高度化しすぎてしまった生活を、欲求を満たすというシンプルな方向に引き戻すといった発想をしてみても面白いのかもしれません。
圧倒的にデジタル化を加速させたスティーブ・ジョブスも、こう言っています。「シンプルにするっていうのは、複雑であることよりずっと難しいんだ。シンプルなものを生み出すには、思考をシンプルにしなければならないからだ。しかしそうする価値はある。そこに到達できれば、山をも動かせるからだ」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング