「あの商品はどうして人気?」「あのブームはなぜ起きた?」その裏側にはユーザーの心を掴む仕掛けがある──。この連載では、アプリやサービスのユーザー体験(UX)を考える専門家、グッドパッチのUXデザイナーが今話題のサービスやプロダクトをUXの視点で解説。マーケティングにも生きる、UXの心得をお届けします。
本日、10月16日で創立100周年を迎えるウォルトディズニーカンパニー。1923年にスタートしたディズニーのアニメーションは『しあわせウサギのオズワルド』シリーズなどの作品を次々と製作し、28年に登場したミッキーマウスが大人気となることで100年の歴史の土台を築き上げました。
『白雪姫』『シンデレラ』『眠れる森の美女』など童話を元にしたアニメーション映画は、子どもが見ている傍らで目にしたことがある方も多いかもしれません。美しいお姫様が運命の王子様と出会い、幸せなハッピーエンドを迎える……現実がそんなにうまくはいかないことは、大人になって気付くものです。
そんなディズニー映画が、近年少し変わってきているのをご存じでしょうか? ディズニー長編アニメーションの1作目『白雪姫』では、プリンセスはりんごをかじっただけで眠りについてしまうとても儚(はかな)いお姫様でした。
ところが、79年経った2016年にはその姿は一変。『モアナと伝説の海』のプリンセスは、自らの手で海という巨大な自然物を味方につけて邪悪な悪魔と戦い、自国を平和に導いたのです。
変わったのはプリンセスのイメージだけではありません。大ヒット曲「Let It Go」でおなじみの『アナと雪の女王』は、王子様と結ばれて「めでたしめでたし」といった定番のエンディングではなく、仲がこじれた姉妹の仲直りという意外さが話題になりました。
そして変化といえばもう一つあり、扱われているテーマも少しずつ近代の世相を反映しています。かわいらしいキャラクターと困難を乗り越え幸せになるという分かりやすいストーリーから、一見子ども向けだと感じるディズニー映画ですが、とある視点からじっくり読み解くといわゆる「社会問題」を訴えるメッセージが隠されています。
子どもの付き添いで観たはずなのに、いつの間にか親であるこちらが深く考えさせられる――実はこれもディズニーがデザインしたユーザー体験なのです。今回は、そのユーザー体験についてどんな意図が隠されているのか読み解いていきます。
100年続くアニメーションスタジオというのはなかなか成し得ない偉業といえます。ではなぜここまで長くディズニー映画が愛され続けているのでしょうか。
冒頭で挙げた、いわゆるプリンセスストーリーも人気のディズニー映画ですが、その他にも友情や自己受容、責任と成長など現代でも共感しやすい価値観がファンタジーな世界に組み込まれ、大人も引き込まれるストーリーを構成している作品が多く存在するのが魅力です。
例えば1992年に公開された『アラジン』は、主人公はプリンセスではなく貧しい少年のアラジンで、誠実さを学ぶことでプリンセスのジャスミンと結ばれます。魔法のランプや絨毯といったファンタジー要素を通じて、お金や権力よりも自分らしさと人間性が重要であることを訴えています。
94年に公開された『ライオンキング』にはプリンセスは登場しません。舞台はアフリカの大自然で、主人公含め動物たちが主な登場人物です。ライオンの王子である、主人公・シンバはもともと自己中心的な考えを持っていますが、弱い動物と友だちになることを通じて大きな責任を背負える存在である大人のライオンに成長していくというストーリーです。
この2つは近年ミュージカルや実写映画としても大ヒットし、ファンタジーと人間の価値観をひも付けたストーリーが普遍的に世の中に愛されることを証明しています。
また、ディズニーアニメーションは100年近く前からその技術力も賞賛されてきました。特に背景描写の美しさが有名ですが、その技術は年々進化しており、現在公開中の『マイ・エレメント』でも話題になりました。擬人化された火や水といったエレメントたちが主人公のこの映画では、水のキャラクターが街の中を歩くシーンがたくさん登場します。作り込まれた街の背景もそれはそれは美しいのですが、よくみると水のキャラクターの体には、水を通した背景までが緻密に描かれています。
「水なんだから透けるのは当たり前」と感じるかもしれませんが、水の質感を考慮した背景を1コマ1コマキャラクターに描くのは、大変な技術とコストが必要です。こういった緻密な作り込みが反映された美しい映像は「さすがディズニー」であり、子どもと一緒に大人も楽しめる要素だといえます。
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