リテール大革命

「2024年問題」だけじゃない! 小売業界が直面するいくつもの重要課題前編(1/4 ページ)

» 2023年12月28日 05時00分 公開
[佐久間 俊一ITmedia]

著者プロフィール

佐久間俊一(さくま しゅんいち)

レノン株式会社 代表取締役 CEO

城北宣広株式会社(広告業)社外取締役

著書に「小売業DX成功と失敗」(同文館出版)などがある。

グローバル総合コンサルファームであるKPMGコンサルティングにて小売企業を担当するセクターのディレクターとして大手小売企業の制度改革、マーケティングシステム構築などDX領域のコンサルティングを多数経験。世界三大戦略コンサルファームとも言われている、ベイン・アンド・カンパニーにおいて2020年より小売業・消費財メーカー担当メンバーとして大手小売企業の戦略構築支援及びコロナ後の市場総括を手掛ける。2021年より上場会社インサイト(広告業)のCMO(Chief Marketing Officer)執行役員に就任。

2022年3月小売業と消費財メーカーの戦略とテクノロジーを専門にコンサルティングするレノン株式会社を設立。

2019年より1年半に渡って日経流通新聞にコーナーを持ち連載を担当するなど小売業には約20年間携わってきたことで高い専門性を有する。

日経MJフォーラム、KPMGフォーラムなど講演実績は累計100回以上。


 生活に密接する小売業は、消費者やテクノロジーの変化に応じて「今こそ変革のとき」と毎年いわれるほど、変化・対応の歴史をたどってきたように思います。DXの必要性が声高に叫ばれ、各社がこぞって着手し、失敗も繰り返されてきました。

 世界最大級である小売業界の団体・NRF(National Retail Federation 全米小売業協会)が毎年主催する大型のカンファレンスでは、約1000にも上るブースの全てがテクノロジーに集中しているといっても過言ではありません。テクノロジー全盛で、全ては自動化に向かうような錯覚さえ覚えることもあります。しかし実態はどうでしょうか。

 3月に米アマゾン・ドット・コムが、レジなしコンビニエンスストア「アマゾンゴー(Amazon GO)」8店舗の閉鎖を発表しました。店舗にサービスを付加するRaaS(Retail as a Service)として話題を呼んだ「売らないお店・体験型店舗」の代表企業であるb8ta(ベータ)は、2022年に米国の全店を閉鎖しました。いずれも大きな注目を集めたテーマでしたが、継続的に生活者から支持される上で、本質的課題が隠れていたのかもしれません。

 24年以降に小売業の発展を目指す上でも、先進的テクノロジーと店舗ならではの普遍的価値のバランスには注意を払って進めていく必要があります。今回は前後編に分け、24年の小売業における重要テーマと、その展開のポイントを11の視点からまとめていきます。

小売でテクノロジーを活用する上で知るべき重要テーマを解説(出所:ゲッティイメージズ)

重要テーマ(1)新規事業のポイントは「飛び地」ではなく「地続き」で

 新規事業と聞くと、小売業とは関係のない飛び地のような多角的事業展開を想像することもあります。しかし、小売業においてそのような新規事業の展開は適さず、自社が保有する既存の価値と融合できる、新たな事業や価値の付加に着手しなくてはなりません。

 小売における新規事業が必要な理由は、店舗が飽和し、出店拡大で大きな売り上げを作れなくなったことに尽きます。上場企業を中心に増収増益を掲げて達成を目指す一方、各社の店舗数が飽和して、出店余地がなくなりつつあるのです。その結果、新しい事業でその分を穴埋めする以外にはないという企業が増えています。

 小売における代表的な新規事業が、リテールメディアです。リテールメディアは店舗にサイネージを設置し、そこへメーカーの動画を流すことで広告費をもらうことをイメージしがちです。確かにインパクトもありますから、リテールメディアといえば店舗サイネージという印象を持つ方も多いことでしょう。しかし、それではサイネージの初期投資を回収するのに3〜5年も要してしまいます。

 リテールメディアの稼ぎどころはサイネージではなく、アプリ・EC・人流データ(ビーコンを含む)にあります。特に人流データと小売業のPOS・ID連携は、投資コストを抑えつつ早期に着手できるものです。人流データによって、小売側はダッシュボードで個店別の来店動向を検証するモデルを構築できるようになります。これは、既存の小売事業におけるマーケティングの高度化にもつながる大きな価値といえます。

 広告のセールス面においては、メーカーの宣伝費をリテールメディアにシフトする役割を誰が担えるのかが課題です。リテールメディア構築とともに、メーカーに対する広告営業の両輪を回せなくては、この事業は円滑に進行しません。

 リテールメディア以外には、自社で導入したITの事例化を行い、ツールそのものの販売につなげる「IT事業参入」も挙げられます。エンターテイメント、ヘルスケアについても新規事業としての可能性を秘めており、大手各社の新たな収益モデルの構築に24年は注目が集まります。

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