佐久間俊一(さくま しゅんいち)
レノン株式会社 代表取締役 CEO
城北宣広株式会社(広告業)社外取締役
著書に「小売業DX成功と失敗」(同文館出版)などがある。
グローバル総合コンサルファームであるKPMGコンサルティングにて小売企業を担当するセクターのディレクターとして大手小売企業の制度改革、マーケティングシステム構築などDX領域のコンサルティングを多数経験。世界三大戦略コンサルファームとも言われている、ベイン・アンド・カンパニーにおいて2020年より小売業・消費財メーカー担当メンバーとして大手小売企業の戦略構築支援及びコロナ後の市場総括を手掛ける。2021年より上場会社インサイト(広告業)のCMO(Chief Marketing Officer)執行役員に就任。
2022年3月小売業と消費財メーカーの戦略とテクノロジーを専門にコンサルティングするレノン株式会社を設立。
2019年より1年半にわたって日経流通新聞にコーナーを持ち連載を担当するなど小売業には約20年間携わってきたことで高い専門性を有する。
日経MJフォーラム、KPMGフォーラムなど講演実績は累計100回以上。
テクノロジーの活用が進み、画期的なサービスを提供する企業も増えつつある小売業ですが、方法を誤ると逆に振り回されることにもつながります。本記事では、前回に続いて2024年に小売各社がテクノロジー活用を交えて目を向けるべきテーマを解説していきます。
小売は自社で商品を製造している企業が少なく、これまではメーカーから提案される商品を選定して仕入れるケースが主流でした。昨今は、製販一体型へシフトしていく動きが見られます。
例えば、ユニクロはSPA(製造小売)として製造機能と小売機能の両方を保持して発展してきたモデル企業です。ユニクロのようなモデルを一部取り入れ、製品開発の企画、ユーザーニーズを把握しながら自社製造を行うことで、利益率を高めるとともに顧客視点のマーケティングを強化する潮流が強まっています。
食品小売の代表例が、神戸物産が展開する業務スーパーです。自社企画・自社製造だからこそ、自社の収益性も考慮した上で消費者が喜ぶ商品を開発できています。仕入れ主体型だった小売がこのような方向性を進めるには「SCM(Supply Chain Management、サプライチェーンマネジメント)改革」を行う必要があります。具体的には、マーケティング機能や企画機能を組織として強化していくべきです。
メーカー視点では自社の商品を多数取りそろえてもらう方が望ましいのですが、小売の潮流は完全にプライベートブランドへと移行しており、この流れが止まることはないでしょう。商流を変えるSCM改革と、頭脳としてのマーケティング機能を確立することは、24年にはさらに進化していくことでしょう。
経済産業省の調査では、22年における日本の物販系EC市場規模(BtoC)が13兆9997億円。EC化率は10%弱に達しました。コンビニ・ドラッグストア・ホームセンター・スーパーマーケットなど各店舗チャネルの市場規模と比較しても、ECチャネルは最も大きなチャネルになっています。
日本はコンパクトな国土ということも影響し、店舗と住宅地が近くに存在しています。そのため、ECで注文した商品を店舗で引き取る「BOPIS(Buy Online Pick up In Store)」が広がると思われがちです。しかし近いからこそ、わざわざ歩いて取りにいくこと、数分だけ車を走らせていくことを面倒に思う心理が働くのではないでしょうか。
つまり日本においてはBOPISではなく、店舗在庫から自宅へ宅配するECが有効に作用するように思われます。実際に各業態の代表的企業が、店舗在庫を自宅へ配送するサービスを強化しています。店舗に在庫場所や宅配拠点としての役割を付加して、ラストワンマイルの課題へ対応する流れは今後さらに拡大していくはずです。ドローンの活用や無人配送車などの実証実験も続いており、前回の記事で触れた地方流通網の維持に向けたテクノロジーの普及、法的観点のクリアにも期待が集まります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング