有休取れず、賃金増えず……男性の育休取得アップの裏で、見逃される5つの視点働き方の見取り図(3/3 ページ)

» 2024年01月17日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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育休以外に企業が取り組むべき5つのアプローチ

 育休をめぐる問題の解決には、育休取得率の向上だけにとらわれず、さまざまな観点から施策を組み合わせる必要性が見えてきます。これから必要となる問題解決に向けたアプローチとして、5点挙げたいと思います。

 まずは、育休だけでなく、年次有給休暇などの休みを取得しやすくすること。内閣府の令和5年版男女共同参画白書によると、21年度における男性育休取得者の取得期間は5日未満が4分の1、2週間未満が過半数となっています。2週間程度であれば有休で十分まかなえる人もいそうです。

 育休取得も大切ですが、そもそも有休が消化しきれていない人も多い中、取得条件や手当などに制約が多い育休だけ促進するのは奇妙に感じます。基本的に賃金の100%が支給される有休を柔軟にしっかりと取得できれば、仮に育休を取得しなかった場合でも、キャリアを継続させながら夫婦がお互いに家庭の状況に合わせてカバーし合いやすくなります。

 次に、勤務時間を固定せず柔軟にすることです。子どもが小さいうちは特に手がかかるため、寝静まってくれるまで自分のことができません。仕事と育児を両立させている人の中には、夜10時以降の方が時間が作りやすい人もいます。フレックスや裁量労働など自分の都合で勤務時間が選択できると、復帰後も育児と両立させてできる仕事の幅が広がります。

写真はイメージ

 勤務時間と同じく、テレワーク環境を整えて勤務場所を柔軟にすることが第3のアプローチです。特に在宅勤務は、育児の合間のスキマ時間を使って働きやすくなります。さらに、通勤に費やしていた時間を仕事に使えるため、育児との両立によって勤務時間が大きく制限されることを理由に仕事の幅が狭まる可能性を少なくすることが期待できます。

 賃金制度のあり方も鍵を握っています。多くの職場では、勤務時間の長さにひもづいて賃金が増えます。長く働けば働くほど残業代などが上乗せされて収入が増える仕組みではなく、成果で評価される職場なら、勤務時間に制約があっても工夫次第で育児と両立させながら収入増やキャリア形成を図るチャンスを増やせます。

 最後に、育休期間を含め、育児そのものの経験による社員の成長を人事考課などで評価することも大切なアプローチです。育児の当事者となる経験は生活者の視点を学ぶ機会となり、職場では得られない視野を広げられる面があります。

 また、男性の育休取得が促進されるにつれ育児との両立に取り組む社員が増えれば、管理職にとっても育児経験をマネジメントに生かせる場面が増えるはずです。他にも、日々の育児を効率よく行うことで段取り力が磨かれたり、ママ友やパパ友など育児をめぐる新たなコミュニティの中で生活することでコミュニケーション力が磨かれたりとソフトスキルを高める機会にもなりえます。

 育休は、かつて女性でも取得が困難な時代がありました。今では男性育休が促進され、世の中の認識も変化しつつあります。男性の育休取得率は依然、低い状況ではあるものの、ほんの数年のうちに2桁台になったのは凄いことです。

 現段階が「男性育休1.0」だとすると、男性社員が育休取得を申し出ることへの違和感がなくなりつつあるという“意識変化”をもたらしたことは大きな成果だと思います。ただ、男性育休1.0はゴールではなく始まりに過ぎません

 政府は民間企業の男性育休取得率を25年までに50%以上、30年には85%まで上げる目標を掲げています。取得状況の公表義務を負う対象企業を1000人超から300人超に広げることも検討していると報じられていますが、その施策ではあくまで男性育休1.0の範囲にとどまります。それどころか、育休取得率の数字だけ追いかけると、育休取得に付随して生じるさまざまな問題を放置したまま、職場が形ばかりの育休を取らせようとする「とれとれ育休」が横行しかねません。

 少子化や女性の就業率向上などが同時に進む中、育休をめぐる問題の解決は切実です。男性育休1.0で足踏みせず、先出の5つのアプローチも踏まえながら、家庭とキャリア両面で発生する問題に総合的に取り組む「男性育休2.0」へと早々に移行させる必要があります。

 今から6年経った30年になってもまだ、育休取得率85%に達したかどうかに一喜一憂しているようだと、育休を巡る状況はただ足踏みしていたことになるのではないでしょうか。

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