有休取れず、賃金増えず……男性の育休取得アップの裏で、見逃される5つの視点働き方の見取り図(1/3 ページ)

» 2024年01月17日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 かつては「男が育休なんて」と言われた男性の育児休業。今では企業から「ぜひ取ってほしい」といった声が上がるなど、前向きな意見が聞かれるようになりました。

 これまでの社会には「育児は女性の役割」という固定観念があったため、育児負担は女性に偏り、育休は女性だけが取得するものでした。

 政府は企業の男性育休取得率を2025年までに50%以上、30年には85%まで上げる目標を掲げており、男性の取得率は着実に上昇機運に乗っています。では、このまま男性の取得率が上昇すれば、育児を巡る課題は全て解決するのでしょうか。

 取得率の数値目標にばかり目を奪われていると、他の有効な選択肢を見落とす可能性があります。詳しく見ていきましょう。

育休を巡る問題は男性の取得率が上がば解決するのか。写真はイメージ(ゲッティイメージズ、以下同)

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総研』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約50000人の声を調査したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


男性の育休取得で浮上した新たな問題

 厚生労働省の令和4年度雇用均等基本調査から育休取得率の推移を確認すると、女性と男性の間にはまだまだ大きな差があることが分かります。

 グラフを見ると、05年度まで男性の育休取得率は0%台。この頃には、まだ育休を取得する男性はほとんどおらず、男性が育休を取得するという発想自体もほぼなかったと思います。そのまま15年度までは1〜2%のあたりをうろうろする状況が続きました。

 その後、上昇トレンドとはなりつつも19年度までは1桁台です。徐々に男性育休の必要性が取り沙汰されるようにはなったものの、男性社員が育休取得を申し出る際には、それなりに勇気が必要でした。

男性の育休取得率は2桁台に(厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査」より筆者作成)

 ところが20年以降、男性の育休取得率は2桁台に入り、上昇機運が一気に加速しました。育児介護休業法の改正や、政府の男性育休取得率を目標に掲げるなどの施策が奏功し、非常に硬かった岩盤にいよいよ風穴が開いた感があります。

 一方で育休取得期間の短さや、夫が育休を取得したものの「よく分からないから」と育児せず、家でゴロゴロするだけで育休とは名ばかりの「とるだけ育休」が問題視されるようになってきました。

 男性の育休取得にはさまざまな意義があり、女性に偏っている育児負担を軽減することも重要な意義の一つです。しかし「とるだけ育休」では意味がないどころか、夫が家にいる分食事の支度や掃除などの家事が増え、かえって妻の負担が増えるケースも見られます。

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